From Darwin to Derrida その138

 

第12章 意味をなすこと(Making Sense) その3

 
ヘイグは水素のあるなしを条件としてマッチを擦る機械仕掛けを提示し.この機械仕掛けは水素のあるなしを入力として,マッチを擦るかすらないかという行動を選択(つまり入力を解釈)しているのであり,ここから動物やヒトの解釈まで量的な違いしかないと議論する.そしてこのような機械仕掛けの解釈は機能や目的につながるという哲学的な議論を提示した.ここから前章のおさらい(再帰的な自然淘汰プロセスは,ある事象が原因であり結果であることを可能にし,意味と目的で説明できるものになる)になる.

 

解釈の目的論

 

  • 「意味」と「機能」は志向性のある用語だ.前章では生物学的機能を自然淘汰による適応という目的論に基礎づけた.そこでは目的因は作用因の複雑な連鎖の必要不可欠な要約として提示された.
  • 単一の効果トークンは単一の原因トークンに先立てない.しかし原因トークン群を原因種として一般化するなら,原因トークン群は再帰的過程の中で,結果トークン群に先立つことも後に立つこともできるようになる.1個の卵と1羽のニワトリの因果の完全な描写には過去のニワトリ群と過去の卵群の長い連鎖を含んでいる.1個の卵は過去の1羽のニワトリの結果であり,同時に将来の1羽のニワトリの原因なのだ.

 

  • 自然淘汰は,環境が実際の事物のセットの中からサブセットを選び出す(select)全てのプロセスを包含する.次の淘汰ラウンドが始まるまでに消え去ったサブセットは繁殖により補填される.
  • 自然の「選択(choice)」は非意図的だが,その「選択(choice)」のいくつかはその繰り返しが意図的に選択された(chosen)ような遺伝的記録を残す.そして突然変異や有性生殖の組み替えにより再帰的な繁殖は同じことの繰り返しから解放される.このプロセスにより,再帰的に淘汰された(selected)サブセットは過去何が効いたのかの情報を累積させる.そして過去に効いたものは,環境からの情報の(進化的時間というより)リアルタイムの解釈だ.
  • この結果,世界は生物学的解釈者にあふれている.この解釈者は違いを作る違いを環境中の無数の潜在的要因から選び出し(select),異なったかもしれない観察に基づき可能な行動の選択肢から1つの行動を選ぶ(choose).可能なインプットからアウトプットへのマッピングは解釈者の優れた構造に組み込まれており,そこでは情報と意味がよくフィットしている.このフィット,つまり解釈の有効性は過去の自然淘汰に由来し,自然淘汰は解釈者の生涯にわたる発達プロセスを通じてより精妙になる.

 
このあたりは前章の復習の内容が多いが,やはりこのchooseとselectの使い分けは謎だ.ここからリアルタイムの意図の問題に入っていく.
 

  • 「意図」とは予期された効果を選ぶ(choose)ことだ.私たちは2種類の意図を区別することができる.「1次(primary)意図」は過去に効果のあった原因を繰り返すことだ.これは自然淘汰による適応や条件反射の意図性だ.過去の効果が再現されることが予期されている.
  • 「2次(secondary)意図」は可能な選択肢とその効果のシミュレーションに基づいた選択(choice)だ.シミュレートされた効果が行動が実行されたときに生じると予期されている.2次意図は想像,つまり心の中で考え仮想結果を評価する能力が必要になる.(1次と2次という言葉を使っている意味は,予期は想像より前に進化したということだ)

 
ここでいう1次意図はいかにも単純な機械仕掛けがなしうるもので,2次意図はかなり洗練された認知システムが必要なものということになるだろう.(前段で全ては量的に連続しているという議論をしたはずなのに)なぜこれを区別するのかはここでは説明されていない.
 

  • 「幕間」の前に私は,情報はそれが目的達成のために使われるときに解釈者にとって意味を持つと書いた.本章では単純化と明確化のために意味と解釈を同じに扱う.
  • 選ばれた(chosen)行動や物事は,解釈者にとっての観察の意味だ.情報は,実際に生じたことが観察されるまで「可能性」にとどまっている物事の差異の中にある.意味は解釈者の観察に対する反応であり,それ自体が別の解釈者に観察され情報として利用されうる物事だ.これらの定義に従うと,「意味論的情報(semantic information)」は矛盾した用語(a contradiction in terms)ということになる.

 
なぜ「意味論的情報」が矛盾を含むのかは難解だ.単に重複した冗長な表現というではないかという気もするところだ.