Animal Signals


Animal Signals (Oxford Series in Ecology and Evolution)

Animal Signals (Oxford Series in Ecology and Evolution)

ジョン・メイナード=スミスによる遺稿とも言うべきこの書物はやはりメイナードスミスらしく透徹な思考の成果物である.
信号の進化についてはそれまでのナイーブな考え方からドーキンスとクレブスによる「利害が一致していれば信号はコストをかけないようにほとんどわからない些細なものになるはずだし,利害が対立すればお互いに相手を操作しようとするので明確な信号の進化には理論的な問題がある」ことの指摘により課題が認識され,ザハヴィによりハンディキャップの説明がなされ,グラフェンによるそのモデル検証という歴史的進展があるのであるが,本書はその他の問題も含めて動物の信号の進化の問題をを包括的に体系化した書物である.
信号の定義,信号が正直に進化する条件の整理,そしてその一つ一つについて理論的解析,野外の観察で見られる例の説明,そして残された問題をきちんと叙述している.fakeできないindex としての信号から,ハンディキャップ,そして共通の利害がある場合,さらに罰がある場合,そしてreputationにかかる場合,最後にヒトの言語にまでコメントしている.
この本を読んだ後に動物を見るとそのすべての身振り,音声の背後にある理論的な問題を感じずにはいられない.動物行動に興味のある人すべてに強く推薦できる.



ここからは備忘録

まず第一章はなぜこの本を書くに至ったか.ザハヴィのHandicap理論がGrafenによって数理的にモデル化され広く認められるようになって動物の信号を巡る問題は大きく前進しているが,まだ若干の混乱が残っている,
まずはindex signalとhandicap signalを峻別したいとのこと.表したいものに直結していてfakeできない信号と表すことにコストがかかるために正直に進化する信号は異なると言うこと.
まず信号を定義;送り手による行動の構造で受け手がそれにより行動を変化させるもの,そして信号も受け手の行動の変化も進化したもの
"any act or structure which alters the behaviour of other organisms, which evolved because of the effect , and which is effective because the receiver's response has also evolved"

ドーキンスとクレブスの古典的な整理では,信号の送り手と受け手はマニュピレーターとマインドリーダーとして進化する.平衡としては平均して互いに利益があるときにのみ信号は進化するだろうというもの.

またハンディキャップ以外で信号が進化しうる可能性として4つを挙げる
1)双方に利益があること
2)インデックス(表示するものに直結していてウソをつけないもの;例;身体の大きさ)
3)reputation
4)罰される可能性;この場合には進化的平衡では誰も嘘をつかなくなる.そして理論的問題はなぜ他個体が罰をするコストを負担するかと言うことになる.


著者はここでハンディキャップとインデックスを峻別することを力説する.私的にはここはその峻別の必要性がよく理解できなかった.特に理論的には進化の制約がどこまでと考えるかによってどうとでも解釈できるような気がする.ただフィールドスタディでは有効なのかもしれない.
双方に利益があることについてはこれはタカハトゲームのそもそもの論点でもあり,詳しく説明される.完全に利害が一致しているわけではないのだが非対称になっている事項について意見が一致できるなら争いが避けられるという状況が典型的.

まずハンディキャップについて
インデックスと違ってハンディキャップの場合コストは弱いものにより多くかかる必要がある.グラフェンは雄の広告戦略(自分の質qに関する関数形)と雌の解釈戦略(雄の広告aに関する関数形)の進化モデルとしてハンディキャップモデルを検証した.本書ではえさをねだる雛のモデルとして提示.
では野外で観察されるもののうちどのようなものはハンディキャップといえるだろうか.性選択にかかる形質として眼柄が長いハエの例.そして象の発情(musth)

次に共通の利益から信号が正直なもの
魚と雄と雌の産卵と放精のシンクロ,シャチの共同の狩り,ミツオシエ

もう一度インデックスのハンディキャップの違い
カエルのコールの音の低さについて.これは限界まで咽頭が低ければ後は体の大きさのみで決まる.体の大きさまで戦略の中に入れてすべての制限をとるとなんらかのとれーどおふになっていることになりすべてのインデックスはハンディキャップとなる.もしかしたら人の咽頭が低いのも低音を巡るアームレースがあったからかもしれない.いろいろなケースも細かく検討される

信号の進化
基本はCueから始まる.そして儀式化される.いったん信号として機能し始めるとすべての個体が最大限に信号を送ろうとするのでインデックスとして信頼できるようになる.
インデックスでないものは送信者と受信者の間でアームレースになりやすい.

争いを避ける非対称についての共通の利害
モデルで解析すると信号が離散的であれば進化しうる.連続的な場合には嘘をついた場合に罰があれば正直な信号に進化する.非対称がなければ持久戦になる.
最後に霊長類に見られるreputationによる信号の正直性について.共通の利害がなくとも繰り返しinteractionがあれば進化しうる.そして人について.利他的な罰と感情.最後の人間の言語について

全般に非常に透徹.