
- 作者: William A. Searcy,Stephen Nowicki
- 出版社/メーカー: Princeton University Press
- 発売日: 2005/09/04
- メディア: ペーパーバック
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第3節は鳴鳥のさえずりだ.これはバードウォッチャーにとっては春の楽しみだが,オスによるメスへの信号であることも間違いない.本書では例によって,受信者の反応,信頼性とコスト,だましと順番に解説されている.
まずさえずりの特性を4つあげている.
- さえずりの量
- さえずりの複雑さ
- 地域的なさえずり構造
- 音響特性
鳴鳥の種類によっていろいろな特性が信号になっていることが述べられている.キタヤナギムシクイではさえずりの量,シジュウカラ,スゲヨシキリ,ニシオオヨシキリはさえずりの複雑さがメスに選ばれるのだそうだ.シジュウカラのさえずりにそれほど複雑性があるとは思えないのでこれはちょっと意外.
地域的なさえずり構造,つまり方言についてはいろいろ面白い問題があるようだ.ヒトには識別できなくともミヤマシトドのメスはオスの出身地を区別できるらしい.演奏特性としては周波数帯域や,トリル音についていろいろな研究があるようだ.
さえずりは何を表しているのか.
ヨーロッパカヤクグリ,ハゴロモガラス,チャバラミソサザイ,マダラヒタキではテリトリーの質と関連があるようだ.またオスの子育て投資量を表すという仮説もいろいろ検討されている.しかしこのあたりの関係は複雑だ.
例えばズグロムシクイではオスの投資量はさえずり量とは強く負に相関し,テリトリー内のエサ密度と相関し,巣内の捕食減少と相関している,そして多変量解析ではメスの選好は直接テリトリーのエサ密度を選んでいるのではなく,オスのさえずり量を選んでいるという結果になるらしい.この研究を行ったホイレイトナーはオス間競争でさえずり量の多いオスはよりエサ密度が高いテリトリーを獲得できているのだろう,そしてメスは繁殖期のはじめにはその後のエサの状況がわからないのでさえずり量を基準にオスを選ぶのだろうと示唆しているとある.信頼性の問題はそういう解釈でいいかもしれないが,では何故メスにわからないものがオスにはわかるのだろうか.なかなか現実は複雑で難しい.
良い遺伝子という仮説についても生存能力,巣立ち時の子供の体重,寄生耐性などが検討されている.
コストはどうだろうか.
状況的にオスのは信号を誇張する誘因がある,これに対してだましを抑えているコストは何だろうか.
まずエナジーコストが酸素消費量などで検討されている.ミソサザイではある程度コストがあるようだが,それ以外の鳥では大きな数字は得られないようだ.確かにミソサザイは小さな身体にもかかわらずに非常に大きな明瞭なさえずりで早春のバードウォッチングのお楽しみだ.
もっとも採餌できないという機会コストはあるのかもしれないとされている.
さえずりの複雑性の信頼性
さえずりの複雑性についてはコストがあるのだろうか?
ウタスズメのオスではレパートリーサイズと生涯繁殖成功はきわめて強く相関している.これもメスからの選好が効いているのか,もともともオスの質が効いているのかを確かめるのは難しいようだ.
さえずりの複雑性についてはコストがあるのだろうか?
発達のストレスコスト説ではさえずりの複雑さは雛の時の栄養状態,そしてオスの質全般を表しており,その信頼性はそのような脳を発達させるための発達コストにより担保されていると説明することになる.
シオオヨシキリでさえずりの複雑性はそのオスの若いときの栄養状態と相関しているということが確かめられているそうだ.
方言はどのような情報を伝えているのかについては仮説が3つあるそうだ.
- オスの遺伝子の地域適応
- 何も表していない=メスの選好は副産物
- オスのさえずりの学習能力=発達ストレス
地域適応仮説については学習時期と分散時期の問題や,遺伝的差異のマーカーになりうるか,などが検討され,(それぞれ否定的)またそもそも本当に地域適応されているのかと疑問を呈している.
副産物ではメスの選好を説明できない.
著者のお気に入りは発達ストレス説だ.私もこれがもっとも説得力があると思う.メスはオスが地域オスのさえずりをコピーできるかどうかを聞いているのだ,そしてそれは若いときの栄養状態を訊いているのだと考えるとつじつまが合うだろう.
第3章 利害が相関しないときの信号
(3)鳴鳥のさえずり