- 作者: William A. Searcy,Stephen Nowicki
- 出版社/メーカー: Princeton University Press
- 発売日: 2005/09/04
- メディア: ペーパーバック
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第4節は鳥の長い尾だ.ダーウィンを悩ませたクジャク(正確には尾羽ではなく上尾筒というらしい)や,最初にアンダーソンが性淘汰形質であることを示したコクホウジャク(今回いろいろイメージ検索を行ってどんな鳥かよくわかった),さらに日本のバードウォッチャーならサンコウチョウなどがすぐ頭に浮かぶ.考えてみればそれほど近縁でもないような多くの鳥で長い尾が発達しているというのも興味深い現象だ.
最初は当然ながらかの有名なアンダーソンのコクホウジャク研究の紹介.続いてペトリたちのクジャクの目玉の数とメスの選好の相関を示した研究の紹介.これは長谷川眞理子先生が伊豆のシャボテン公園で追試をやったら同じ結果が出なかったと本に書かれている.
次にやはり有名なモラーのツバメの研究.モラーについては最近とかく取りざたされているようだが,本書ではちゃんとした研究として紹介されている.
信頼性についてはモラーのデータ(尾が長いツバメは寄生虫耐性にすぐれる)のほかクジャクでも目玉模様の大きさと子の体重の相関のデータがあげられている.
コストについてはまず発達コストは当然あるだろうという話になる.種間比較するとオスの尾が長い種では尾羽の構造が単純化しているというデータが紹介されている.発達コストを構造の単純化で補っているのだろうということだが,構造の単純化にコスト削減効果がそれほどあるのだろうか?
次が飛行能力.ここで尾を長くして飛行能力を調べるときの注意として帰無仮説の置き方が議論されている.
現在のオスの尾の長さはそれぞれ飛行能力の点で最適になっているという仮説を帰無仮説にするなら,尾の長さを長くすればやはり飛行能力は下がり,最初の実験では帰無仮説を排除できないことになる.だから本当に確かめなければならないのは今あるオスの尾を短くして飛行能力が上がるかどうかということになると議論されている.なかなか鋭い.
さらに長さだけでなく形状についても解説されている.なかなか深い.さらに単に飛行能力だけでは間接的な適応度の推定にすぎず本来生存能力や繁殖成功まではかれれば理想的であり,ここまできちんと示せた研究はないと言っている,学問の道は厳しい.
最後に第5節として性淘汰信号のまとめがある.
受信者の信号への反応は明白だ.オスの繁殖成功が直接計測されているものがある.それは計測がないが,メスの反応が直接計測されているものもある.後者は性淘汰の例としては不十分かもしれないが,信号理論としては十分な例だ.
受信者が反応しているからといって信号がすべて信頼できるものだとは限らない.いくつかの対立仮説がある.私たちにはメスが本当は何を望んでいるが知りようがないのでこの問題の検証は難しい
これまで議論した信号にはすべてコストがあるようだ.しかしそれで十分かどうかはまだ解決していない問題だ.
これまで見たコストは純粋エピスタシスハンディキャップではない.いくつかは明らかに条件付きハンディキャップだ.よい例はさえずり量だ.機会コストまで考えるとさえずりに費やす時間はいいコスト指標になると考えられる.
尾の長さのコストの問題は複雑だ.
コストは信号がメスに発信されるかなり前に払われている.コストは発達コストと飛行能力へのコストの2つがある.飛行能力へのコストはおそらく真にあるだろう.ある時期の栄養状態がその年の尾の長さを決め,それによるコストがかかった結果の翌年の尾の長さに影響する.
さえずり信号の特徴のうちいくつかは発達コストがかかっている.これらは若い頃の状態だけによって決まる.
カロチノイド色素でもっともはっきりしたコストはグッピーに見られた捕食リスクだ.この場合にはザハヴィの純粋エピスタシスハンディキャップに近くなる.であれば信号の信頼性を説明するものではないだろう.
そして鳥類ではカロチノイドと非捕食の関連は見いだされていない.ある種の鳥では寄生虫や病気に対する耐性のために使われるリソースをさいてカロチノイドを作っているというコストがかかっているのだろう.そしてもっともありそうなコストはこのまれな色素を集めるための摂食コストだろうと思われる.
第3章 利害が相関しないときの信号
(4)鳥の尾の長さ
(5)結論
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- 作者: 長谷川眞理子
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ここで長谷川先生のクジャクの研究がふれられている.
昔書いた書評をここに示しておこう.