The Stuff of Thought: Language as a Window into Human Nature
- 作者: Steven Pinker
- 出版社/メーカー: Viking Adult
- 発売日: 2007/09/11
- メディア: ハードカバー
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さて言語におけるメタファーについての両極端説.「興ざめ説」と「救世主説」
まず興ざめ説の主張はほとんどのメタファーは死んでいるというものだ.
まず死んでいるメタファーがあるのは間違いない.ラテン語や古ノルマン語にルーツを持つものは間違いなくそうだ.
ピンカーはメタファーが破綻の縁にある1つのサインは重複したメタファーの使用だと指摘して次のような例を挙げる.
Those professors tilt at the windmills of a capitalist patriarchy from whose teat they feed,
Once again, the Achilles' heel of a Eagles' defence has reared its ugly head.
文字通りだと資本主義者の父権社会に乳首があったり,アキレスのかかとに鎌首があったりすると言うことだろう.
またメタファーの誤用もその証拠だと言ってゴールドウィニズムの例を示している.これは,MGM (Metro-Goldwyn-Mayer)の創設(1924)に参画した Sammuel Goldwyn が慣用句の誤用など滑稽な表現を使ったということで Goldwynism と呼ばれるものらしい.Goldwyn自身はポーランド生まれで英語はネイティブではないようだ.
日本語で私が思い当たるのは「美奈子ちゃんのことわざ」だろうか.(いまグーグル検索をかけてみるとばんばんヒットした,アニメネタだから当然か)
待てばカイロもあったまる
後悔さっきのタラコ
人のふりして我振り回される
などというのはなかなかなつかしい.
本家の Goldwynismの例としては
A verbal agreement isn't worth the paper it's written on.
For your own information, I would like to ask a question.
Go see it, and see for yourself why it shouldn't be seen.
If you don't disagree with me, how will I know I'm right?
I'll give you a definite maybe.
などがあるようだ.これを見ているとむしろオシム語録の方が近いかもしれない.
ここで救世主説からの反撃.
しかし私達は毎日の生活の中でメタファーを頻繁に使用しているのだ.
そしていまは死んでいるメタファーも最初に作られたときには生きていたはずなのだ.いかにメタファーが蔓延しているかについてピンカーは「論争は戦争だ」「愛は旅だ」と言うメタファーについていろいろ紹介している.そのほとんどはそのまま日本語にできる.ちょっと苦しいのもあるが,むしろそのままメタファーが生きている方が驚きだ.
あなたの主張は防衛不可能だ.
彼は私の議論の弱点をすべて攻めてくる.
彼の批判は的をねらっている.(的を射ているが日本語としては自然)
私は彼の議論を粉砕する.
私は彼女との議論に勝ったことがない.
賛成できないって,だったら撃て.(You don't agree? OK Shoot!)
あなたがその戦略を使うなら彼はあなたを殲滅するだろう.
彼女は私の議論をすべて撃ち倒した.
私達の関係は袋小路に入った.
それは立ち往生している.
これまでやってきたようにはもうやっていけない.
私達がどこまで遠くやってきたかを考えてみて.
ここで引き返せない.
私達は道の分かれ目に来た.
違う道を行くべき時のようだ.
この関係はもうどこにも行かない.
私達はいっしょに車輪を回している.
私達の関係は道を外れた.
私達の結婚は暗礁に乗り上げた.
ピンカーによるとこれらのメタファーは別に詩的な効果をねらったものではなく,「ジュリエットは太陽のようだ」というようなメタファーとは異なっている.このようなメタファーは「概念メタファー」,「生産的メタファー」と呼ばれる.
背後にある「論争は戦争」などの比喩は明示的には示されない.また,この背後の関係に沿って次々と表現が作れる.これは話し手と聞き手が直接言及されているものと抽象的な概念の比喩としての認識を同じようにできるからだ.(文学者はこれをvehicleとtenor,認知言語学者はsourceとtargetと呼ぶ.)レイコフはこのような例を膨大に集めたそうだ.
ピンカーは本節を次のようにまとめている.
このような生産的なメタファーは言語において主要な現象であり,人の認知においては重要な証拠なのだ.抽象的な概念はより直接的な経験にシステマティックに結びついているのだ.
第5章 メタファーのメタファー
(1)興ざめと救世主