「The Greatest Show on Earth」 第13章 この生命の見方には荘厳なものがある その3

The Greatest Show on Earth: The Evidence for Evolution

The Greatest Show on Earth: The Evidence for Evolution


ドーキンスによる「種の起源」最終段落へのオマージュ.

into a few forms or into one;


ダーウィンはここですべての生命が単一起源だったのかいくつかの異なる起源を持っているのかについて留保している.ダーウィン自身は単一起源ではないかと思っていたようだが,確証はないということで留保がされているものだ.ダーウィンの慎重な性格が良く出ていると言えるだろう.

ドーキンスは現代的な理解では現存するすべての生物は単一起源だと確信を持って言えると指摘し,その根拠としては4種類の塩基3文字のアミノ酸指定の遺伝子コードがすべての生物で共通(一部マイナーな違いがあるが議論を左右するほどのものではない)であることをあげている.


ドーキンスはこの一致は偶然ではあり得ないとし,またこれが自然淘汰で進化する(そして複数起源の生物が遺伝子コード上で収斂する)ことも極めて生じにくいという議論をしている.コードが変異したときには身体中のタンパク質がいっぺんにすべて変化してしまう結果になり漸進的な進化を生じさせにくいだろうというフランシス・クリックの議論が根拠としてあげられている.

またポール・デイビスの「どこか地球上の極端な環境には異なった起源を持ち異なった遺伝子コードを持つ生物がいるかもしれない」という議論も紹介しながら.自分はそうは思わない(ここでそのようなものは発見されないと予想をしたとレコードしてもらって結構だ)とコメントしている.

完全な決着がついている問題というわけではないが,ドーキンスとしては単一起源に自信があるということだ.興味深いのは,もし当初複数種類の起源があり,それぞれ異なったコードを使っていた場合に,コード仕様自体が正の頻度依存淘汰をする(つまり一旦偶然によって多くなったコード体系が頻度が多いという理由で有利になる)かどうかという問題だと思う.そういうことがあるのであれば,現生生物がすべて単一起源である説に有利に働くだろう.トランスファーRNAがどのようにコードを内包するのかという問題と合わせて面白そうな話題だが,ドーキンスはそこについては語っていない.


whilst this planet has gone cycling on according to the fixed law of gravity,


ドーキンスダーウィンが不変の重力法則と地球の回転に言及しているところでいくつかの問題を取り上げる.


最初は地球の回転は生命に必須のものだろうかという問題だ.

まず取り上げるのは月の公転だ.ドーキンスは月がなくとも生命は可能だが,その影響を考えるのは興味深いとコメントしている.

自転については,それがないとすれば,地球は片側だけ太陽に当たることになるので,昼の地域は非常に暑く,夜の地域は凍りつくだろうと指摘し,生命がそれでも起源できたかどうかは疑わしいが,ゆっくり自転が止まる場合にはバクテリアは適応するだろうと述べている.テクニカルには自転がないという状態は太陽に対してではなく,背景宇宙に関しての問題だから,1日がちょうど1年になることになるはずだが,実際にはそういう状態は安定しないので早晩片方だけが太陽の方を向くという状態に落ち着くということなのだろう.

次に自転軸が傾いていない場合(つまり季節がない場合)にも触れている.季節がなくとも生命は可能だが,興味深い様々な現象(渡り,繁殖期,落葉,換羽など)が観察されないだろうとコメントしている.

公転がないということになると,恒星から離れて宇宙空間を漂うことになるので,エントロピーを下げるためのエネルギー源に乏しく,生命は不可能だろうとコメントしている.


ここからドーキンスは2つ目の問題に移る.
それは創造論者が「進化は熱力学の第2法則に反しているから不可能だ」という議論を行うことだ.
まずドーキンスは熱力学の第2法則の絶対的な正しさについてサー・アーサー・エディントンの言葉を引用して強調する.

もしあなたのお気に入りの宇宙の理論がマックスウェルの方程式に反しているなら,それはマックスウェルの方が間違っているかもしれない.*1それが観察と矛盾しているとしても,時に実験屋はへまをする.
しかし,もしあなたの理論が熱力学の第2法則に反しているなら,それにはまったく望みはない.それは必ず惨めに崩壊するだろう

その上でこのような主張を行う創造論者は進化理論だけでなく熱力学の法則もわかっていないことが明らかであると述べている.太陽というエネルギー源が外部にあれば,局所的な部分はエントロピーが減少しても問題はないのだということを丁寧に説明している.
自分が良く理解できていない法則を使って墓穴を掘るというのは決して創造論者だけではないが,それは時に意図的に無知な人々を煙幕に巻くのに使われ,実際効果的であり,ドーキンスにとってはいかにも歯がゆいことなのだろう.

*1:原文は「then so much the worse for Maxwell's equations. 」となっていて垂水雄二訳では「マクスウェルの方程式にはお気の毒としかいいようがない」としている.「マックスウェルの方程式が絶対的に常に成立するとはかぎらないのであなたの理論にもまだ望みがある」ということを言いたいのだと思われる.