「Spent」第1章 ダーウィン,モールへ行く その4

Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior

Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior


ミラーは「消費者中心主義」について,ここまで保守の見方,リベラルの見方,そしてマーケティング理論における扱いをけなしてきた.ではヒトは究極的には何をディスプレーしているのか.
進化生物学的な理解から見れば,ある動物が同種個体にシグナルを送っているなら,それは自分の性質にかかる信号であり,それを異性に,ライバルに,捕食者に,親に,血縁者に送っているということになるだろう.


ミラーはヒトの場合についてシグナルをどう解釈すべきかを解説している.まず,男性が女性相手にシグナルを送っている場合,あるいはライバルの男性に対して送っている場合などは性淘汰シグナルと見ることができる.ミラーは男性が見せびらかすポルシェがクジャクの尾と似ているのは直感的にわかるだろうと言っている.実際にこのようなクジャクの尾的な誇示行動は配偶に興味を持つ年代に最も多くみられる.


ではプラダのハンドバッグやマノロラニクの靴はどうなのか.ミラーは「動物界ではメスも誇示行動をするものはまれだが,大型霊長類ではメスの群れ内順序は食料の獲得に効いてくるのでメス内での地位争いがあり,ヒトの場合もこれに似ているのではないか」としている.さらに「このような女性の対ライバルへの誇示行動は男性の関心が薄いのが特徴だ」と言い添えている.
こはちょっと面白い.女性の誇示的消費の見せびらかしターゲットはあくまでライバルであって,男性の気を引こうとしているわけではないという主張だ.確かにより高額なハンドバッグや靴を持っているからといって性的な魅力が高まるということはなさそうだし,結婚後のお父さんは言うに及ばず,現在進行中のカップルであっても,男性にとって女性の買い物につきあうということがどういうことかを考えると,そういうことなのかもしれない.


ミラーはさらにヒトのシグナルの特徴として,それが文化的に発明され,真似されることがあると指摘している.

方式は文化的に進化し,資格証明書,仕事,モノ,サービスという形をとる.若者は文化特異的なインディケータを知りたがり,何がクールかを一日中話している.つまり社会的に性的にもっとも興味がある仲間に何が受けるのかに興味があるのだ.
ちょうど子供が何語でも習得できるように,若者は何がホットかを吸収する.ヒトは本能的な地位表示者なのだ.


要するにミラーの主張は,誇示的消費は,究極的な目標として「富や地位や趣味の良さ」を見せびらかすために進化したものではないということだ.それは半意識的に「富や地位や趣味の良さ」を誇示することにより,実は健康,繁殖性,美しさなどの身体的特徴や,良心的,愉快,新しいことの受け入れなどの性格的特徴.知性などの認知的特徴をディスプレーしているのであり,友人や配偶者や同盟者から,愛,尊敬,支援を得るためのものだという説明になる.


ミラーはここで本書の狙いを簡単に書いている.

  1. 私達の文化を生物学的な視点からあるがままに記述すること
  2. ハウツーとしてその文化を変える方法を示唆すること


2番目の点については,価値判断も時に述べることになると断っている.
ミラーは自分自身はマーケティングと消費者中心資本主義についてアンビバレントだともここで書いている.「アーモンドクロワッサンやBMWiPodは大好きだし,ラスベガスやファーストフードはおぞましい.」のだそうだ.そしてひたすら賛美したり,ひたすら反対するのではなく一歩引いてみてみようと付け加えている.