
Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior
- 作者: Geoffrey Miller
- 出版社/メーカー: Viking Adult
- 発売日: 2009/05/14
- メディア: ハードカバー
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ヒトがディスプレーしている自分のパーソナリティ特性のフレーム(一般知性とビッグ5)について概説を終えた後,ミラーは実際にどのようにヒトはそれをディスプレーしているかという話題に移っている.
当然ながら,そこには信号の信頼性の問題がある.単に自分がこのような人間だと主張するだけでは信頼性はない.ミラーはもし人々が正直なら,単に6つのスコアを刺青すればいいだけだが,それは『チープトーク』にしかならないのだという言い方をしている.もちろん前章で例に出したようなバンパーステッカーもチープトークに過ぎないからこれらは信頼できないというわけだ.
では実際にはどうなっているだろうか.信号が信頼されるためにはコストがなければならない.だから2時間のIQテストでわかる一般知性のスコアをディスプレーするために,何万ドルもの費用と4年間かけて大学の学位を取るということが行われるのだとミラーは指摘している.
そのほかの例としてミラーが挙げるのは,カードの支払いを長年きちんと行いクレジットレイティングを作り誠実性を示す,携帯で何時間も話し込んで自分が社交的だと示す.コスモポリタンな雰囲気の高級雑誌を取って開放性を示す.毎日曜日に教会に行き,牧師階級を存続させるコストを払って,誠実性,調和性,保守性を示すなどの例だ.
ミラーはこれらは単にコストがかかるだけでなく本当にそういう特性がなければ得るのが難しいとコメントしている.もっと正確にいうと,特性のないヒトにとっては同じディスプレーをするのにさらに大きな(心理的な)コストがかかるのだということだろう.これはグラフェンのハンディキャップシグナルの条件を満たしている.
高級雑誌を取るだけなら簡単そうだが,読者であれば当然行うであろう会話についていくには,さらに研鑽が必要だということになるのだ.
要するにもっとも貴重な製品は,(私達が知りたいのが単純な富でない限り)金では買えないものだということになる.ミラーは車の例を使ってどのブランドがどの特性をディスプレーするのに向いているか(あるいはデザインされているか)を示している.ここはミラーの独断と偏見による具体的でなかなか面白い.
<高い知性>
<低い知性>
- Cadillac, Chrysler, Dodge, Ford, GMC, Hummer
- 大きさ,ディーラー金融,
<高い開放性>
- Lotus, Mini, Scion, Subaru
- エキセントリックなデザイン,外車,サンルーフ,若者の人気
<低い開放性(伝統,保守)>
- Buick, Lincoln, Oldsmobile, Range Rover, Rolls-Roice
- 伝統的デザイン,国産車,年配の人の人気
<高い誠実性(責任,警戒)>
<低い誠実性(衝動)>
- Ferrari, Jeep, Mitsubishi, Pontiac
- クルーズコントロール,カップホルダー.加速性
<高い調和性(親切,優しさ,利他性)>
- Acura, Daewoo, Geo, Kia, Saturn
- 環境フレンドリーなデザイン,ハイブリッド,笑っているようなフロントエンド
<低い調和性(攻撃性,優越)>
<高い安定性(幸福感,自己評価)>
- Acura, Porche, Scion
- 元気の出るデザイン,陽気なエンジン音
<低い安定性(不安)>
- Volkswagen, Volvo
- 安全,エアバッグ,ASB,電子的安定制御,保証期間延長
<高い外向性>
<低い外向性>
なお本書は当然ながら例のプリウスのリコール騒ぎより前の出版だ.冷笑的なフロントグリルデザインというのはなかなか笑える.
眺めるとスバルがアメリカで非常にいいイメージを作っているのがわかる.日本だと,ブランドごとというより車種ごとにこのような分類をした方が実情にあっているだろう.(もちろんブランドにもディスプレー要素はある,トヨタはホンダより保守的なイメージがあるだろう.しかしヴィッツとクラウンではかなり異なるのも事実だ)自分が今の車種で何をディスプレーしようとしているのかあらためて考えてみるのも面白い.
これらのディスプレーに信頼性はあるのだろうか.確かに自動車はある程度コストのかかる買い物だから,自分のパーソナリティと合わないブランドに大金を払うのは心理的にもコストがかかるだろう.
しかし実際には買い物は高いものばかりではない.ミラーは「チープトーク」的なアイテムについても説明している.
その例は『音楽の好み』だ.
リサーチによると音楽の好みは実際にその人のパーソナリティを良く表しているという結果が得られているそうだ.そして大学生のオンラインチャットの中身を分析すると,彼等は映画やファッションやスポーツなどよりはるかに多くの時間を音楽に費やす.つまり音楽の好みは信頼できるパーソナリティ特性のディスプレーとして機能しているらしいのだ.
なぜだろうか.まずそのジャンルの音楽を実際に聴かないでフェイクをしてもメールやメッセージをやりとりするとすぐばれてしまうだろう,ミラーはそこまではっきりとは説明していないが,ばれないためには実際に聴くしかないが,自分の嫌いな音楽を聴くことには心理的なコストがあるからだということになるだろう.
またミラーは,高い知性を表すとされるジャンルとしてオルタナティブとクラッシックをあげ,それらはメロディの構造がつかみにくく,微妙に異なる音色が現れ,リズムも複雑で「難しい音楽」であり,バルトークを聴き通すのは低い知性の人たちには難しいことなのだろうといっている.