「人類は絶滅を逃れられるのか」

人類は絶滅を逃れられるのか―――知の最前線が解き明かす「明日の世界」

人類は絶滅を逃れられるのか―――知の最前線が解き明かす「明日の世界」


本書「Do Humankind’s Best Days Lie Ahead?」は既に邦訳が出版予定(11月26日予定)になっている.なおこの邦題の「人類は絶滅を逃れられるのか」は全くのミスリーディングな題名でいただけない.まさにこのディベートの中でも問題になっているようにテーマは「人類の絶滅不可避性」ではなく,「人類の最良の日は未来にあるのか」つまり「将来的にもこれまでの世界の改善傾向は続くかどうか」だ.

そもそも「extinction」という単語が本書に現れるのはわずか6カ所だ*1.最初はリドレーの言及したウッディ・アレン悲観主義的な警句の中で,2番目もリドレーが,実は世の中は良くなっているという文脈で,生物の絶滅率も下がっていると言及した部分であり,人類が絶滅を逃れられるかという問題とは直接関係がない.3〜5番目はグラッドウェルが,技術革新が進んだ世界はよりリスクが高まることを主張する文脈でついでのように言及されているだけだ(3番目は核戦争の可能性は重要だと主張する文脈.4〜5番目は人々がより深く連結すると感染症が広まりやすくなるという文脈)最後の6番目もド・ボトンが医療がいかに進歩しても自分たちの絶滅の問題を解決できないだろうとコメントしている部分に過ぎない.この訳書の邦題を見て,将来的な人類の絶滅リスクの大きさやその要因,それを予防できる方策,その実行可能性などが議論されていると考えて本書を読み始めた人は大いに失望せざるを得ないだろう.

本書の中でこの討論のテーマ「Do Humankind’s Best Days Lie Ahead?」がどう訳されるかはまだ明らかではないが,それをそのまま使うべきだっただろう.この煽って売らんかなというがっかりな姿勢はせめて帯にとどめて欲しいと思う.

*1:極めて簡単にこういうのを調べることができるのも電子書籍のいいところだ.