From Darwin to Derrida その187

 
ヘイグは第14章において自由について語る.遺伝と経験が私たちをどのように形作っているのかについては,そのタイムスケールが大きく異なる.ヒューマンユニバーサルについての遺伝的要因は長いタイムスケールの所産であり,それに生じた有害突然変異が発達に与える影響は(通常の)環境要因より大きいことが解説された

   

第14章 自由の過去と将来について その9

 

  • 瞬間瞬間の行動のタイムスケールについて遺伝子はほとんどコントロールできない.私たちは遺伝子に諮ることなく多くの決定を行う.遺伝子からの入力なしで母親と赤ちゃんは微笑みを交わす.作用因としての物質遺伝子はこの舞台においては出番がない.それら(物質遺伝子)は舞台セットの構築に使われ,そして将来のパフォーマンスのために舞台をリモデルする道具となりうる.

 
逆に行動は短いタイムスケールの現象であり,遺伝的要因はそれを個別にコントロールできない.
 

  • 世界のリアルタイムの解釈者としての私たちは劇における俳優だ.しかしその演技はあらかじめ書かれた脚本のない即興のものだ.私はあなたが何を言うかを聴くまではなんと言うべきかを決められない.因果的なストーリーには多くの語り方がある.

 
つまり遺伝は劇場と俳優を用意するが,脚本と演技を個別にコントロールすることはできない.ここからヘイグは「魂:the soul」という概念を持ち出す.ただしそれはキリスト教的,超自然的な概念ではない.
  

  • 魂(the soul)は生きている身体の形相(form)だ.「魂」と言う単語は,2千年にわたるキリスト教神学との結びつきに搦め捕られている.それは私の意図する意味と異なる.私の意図する意味はアリストテレスの「psuche」(ラテン語ではanima,英語ではsoulと訳される)に近い.
  • 「psuche」は生命の息吹であり,動きの源であり,死体と生きている身体を分けるものだ.「psuche」は生きている身体の動きを開始する.それは身体を(別のものではなく)ある種のものにする本質だ.そしてそれは身体がそのために動く目的だ.この目的(telos)は,行動の利益とも,その行動がなされるための効用的目的とも解釈できる.
  • アリストテレスによると「psuche」は作用因であり,形相因であり,目的因であり,そして「soma」は質量因であり,「psuche」と「soma」の連合が生物だ.だから植物も魂を持つ.魂は,意識的無意識的を問わずその選択を示す生命の精妙な機構だ.完全に形作られた魂は発生において発達し,年齢とともに衰え,最後には存在することをやめる.

 
アリストテレスが登場し,だんだん難解になってきた.ここで「魂」は上記の比喩に沿うなら,俳優に演技をさせる要因としての概念ということになるのだろう.