From Darwin to Derrida その186

 
ヘイグは第14章において自由について語る.遺伝と経験が私たちをどのように形作っているのかをタイムスケールの違いの面から考察する.個体差はより短いタイムスケールで生じる.そして長いタイムスケールの考察では遺伝の要因が大きく浮かび上がり,短いタイムスケールの考察では経験の要因が大きく浮かび上がる.ここから具体例を用いた説明となる.
  

第14章 自由の過去と将来について その8

 

  • 私の良い友人の1人は,CHD7遺伝子におそらく父から受け継いだ新奇突然変異を持っている.この突然変異は視覚,聴覚,嗅覚,三半規管系,および固有受容感覚系の入力にかかる障害を生じさせる.それは彼が世界から受け取る情報と世界の中で彼がとることのできる行動に重大な違いを生じさせる.彼はあまりよくないカードを配られたのだが,その中で幸いにも非常にうまくやっている.
  • なぜそんな質料因の微少な違いが発達に重大な結果を生じさせるのだろうか.その突然変異は太古の形相因を乱し,神経系の発達において細胞がどのように発達すべきかの解釈を深く撹乱させたのだ.その効果にはなんの目的因もない.この突然変異を保つことにかかる淘汰的歴史はない.そしてそれは過去に関する有用な情報を持たないのだ.

 
新奇な有害突然変異は個人の発達に大きな影響を与えることがある.しかしそれは淘汰の結果ではないから目的因を持たないということになる.
 

  • 作用因として働く環境的差異は発達に大きな影響を与えうる.チャウシェスク政権下のルーマニアの孤児たちはCHD7突然変異を持つ私の息子より遥かにひどく人生を撹乱されている(リアムは私に「そんなに悪いカードって訳でもないよ」と言ってくれる).喜ばしいことに微小な環境的撹乱は(そしてかなり大きな撹乱でも)発達に重大な影響を与えることはない.発達に大きな影響を与えるには非常に強く撹乱された環境的差異が必要になる.

 
そして遺伝的な突然変異だけではなく,環境的要因も発達に影響を与える.突然先の「私の良い友人の1人(a very good friend of mine)」が実はヘイグの息子であることが明かされ,読者ははっと感情を揺すぶられることになる.説明はないがおそらく息子さんの名前がリアムなのだと思われる
 

  • ヒトの本性は私たちをほとんどの小さな撹乱から守ってくれる.ネパールで生まれた子どももアメリカで育てば「典型的なアメリカンキッド」になる.彼らのネパールの伝承文化とネパールの祖先は違いを生み出し,アメリカの環境とヒトの本性が同じを生み出すのだ.

 
環境的要因も発達に影響を与えるが,生存に大きな支障を与えるほどの影響を与えるには(チャウシェスク政権が行ったような)よほど大きな環境要因が必要になる.だからこそ通文化的に観察されるヒューマンユニバーサルが存在しうるということになる.