読書中 「Moral Minds」 第5章 その4

Moral Minds: How Nature Designed Our Universal Sense of Right and Wrong

Moral Minds: How Nature Designed Our Universal Sense of Right and Wrong



第6節はねたみから始まる.
ねたみは一般受けしない感情だが,実験経済学や進化心理学的な知見からは生存に重要な感情だということがわかってきている.つまり価値ある資源についての不平等が引き金になる感情であるから,価値あるものを手に入れようという動機になるのだ.(ここが嫉妬との違いだと解説されている)

ここでハウザーは狩猟採集社会において平等社会を保つための仕組みとしてねたみによるうわさ話を持ち出している.しかし,これが適応として進化したかどうかというもっとも興味ある点については触れていない.単純な適応と考えるにはちょっと難しい気もするので,そうだとすると副産物かあるいは文化との共進化ということになるだろう.


ここでハウザーは感情についての適応的議論に一転する.だましの検知に感情が読めることは必要だろうか?そしてフランクの感情のコミットメント説が取り上げられ,いろいろと議論されている.
ハウザーは確かに感情はコミットメントについて重要だが,それだけでは究極のセーフガードにはならないだろうといっているが,これは当たり前だ.フランクの議論は感情の進化的な起源に関するもので,それが協力を保つ絶対的なセーフガードであることを主張しているのではないだろう.


この議論の中で面白かったのは,神経経済学の紹介.(そのような学問分野があることにもちょっと驚き)囚人ジレンマを4回目に裏切るようにいわれている俳優相手とTFTのコンピュータ相手に行って被験者の脳イメージを見る.
被験者は相手が人の場合に,線状体(striatum, 終脳の皮質下構造であり,大脳基底核の主要な構成要素のひとつ)と眼窩前頭皮質orbitofrontal cortex)がより活動する.この部分は報酬アクスセスとコンフリクト解決に関する部分だそうだ.
互恵ができなかったり向こうのオファーがアンフェアだと前島 (anterior insula,痛みや怒り,嫌悪を感じる部分) が活性化する.だましに対して嫌悪を感じているのは興味深い.また自分がコストを払って罰を与えているときには被験者はほっとする感じと満足を味わって,尾状核(Caudate nucleus,報酬を感じる部分)が活性化しているという.

要するに私たちの脳は,だまされたときに相手に対して怒りや嫌悪を感じ,罰するときには自分に褒美を与えているのだということらしい.このようなことがイメージングによってわかるというのも,いわれてみれば当たり前かもしれないが,やはり驚きだ.


第5章 許される本能


(6)情け深い協力