読書中 「Moral Minds」 第5章 その5

Moral Minds: How Nature Designed Our Universal Sense of Right and Wrong

Moral Minds: How Nature Designed Our Universal Sense of Right and Wrong



第7節は社会規範について

規範は学習されるものか,やはり生得的な文法に絡んでいるのかというイントロの課題説明の後(このイントロは冗長でわかりにくい),進化心理学者ラリー・フィデックのウェイソンタスクを用いた実験が紹介される.

予防措置と社会契約と社会慣習のそれぞれのルールについてウェイソンタスクの主題効果があるかないか,権威や集団のコンセンサスがこれらのルールを変更できるかという質問への回答,ルールを破った人の表情予測,ルールを破ることについて意図を問題にするかを調べる.
フィデックの結論はヒトは予防と社会契約と社会慣習を異なったクラスのルールと認識している,この差は私たちの道徳能力のコアから来ているというものだ.

ハウザーはこの区別は大まかすぎていて,さらに細かく意図やオプションや結果を見なければならないと言っている.社会契約では意図と予見できた結果を区別するのか.第3者を助けるためなら意図した契約違反は許されるのか.これらを知るためには社会規範の文法を調べなくてはならないというのだ.またこれはすべての状況において成り立つのかという道徳客観主義の問題を考える助けにもなるだろうとも言っている.


第8節は道徳がどこまで生得的なのかについて整理している.

まず生得主義と学習主義の歴史から.1932年教育心理学者のヘレナ・アンティポフは道徳感覚は生得的に感情的に得られるようだと述べ,ピアジェは道徳感覚は社会的に得られるのだとこれに反対したと言う歴史が述べられ,この2者択一的な論争は間違っており,ヒトの心は何らかの生得的な能力を持ち,環境経験によって調整されるとまとめている.

要するに証拠から支持されるのは適度のロールズ的モデルであり,いくつかの原則とパラメーターを持っているというのがハウザーの結論だ.私たちの道徳能力は,害の可能性がある行動に対して,その行為者の意図,目的,結果をパラメーターとして評価する,そしてこれらのパラメーターこそ列車のジレンマの判断を大きく左右させるものであり,普遍的道徳文法はルールとパラメーターのセットだと言うのがハウザーの主張の根幹だ.



最後に第2部全体のまとめがある.第2部は各論であり,いろいろな話題が前後のつながり,全体の主張の筋がわかりにくく並べられていて,読者としてはなかなか読みにくい構成だったと評せざるを得ない.ハウザーのまとめは以下の通りだ.

第2部では私たちの道徳能力の発達についての材料を見てきた.証拠は適度のロールズモデルを支持している.私たちは道徳獲得装置を持って生まれる.赤ちゃんは原因と結果を感じる部品を持って生まれ,その能力の伸長と他者との関わりの中で道徳判断ができるようになる.赤ちゃんはまた,ある行動についての無意識で自動的な感情反応を持って生まれる.この2つにより子供は道徳システムを作り上げる.そしてその道徳システムははそのローカルな文化によりパラメーターがセットされるのだ.


第5章 許される本能


(7)操縦の規範


(8)生得主義