読書中 「The Stuff of Thought」 第5章 その6

The Stuff of Thought: Language as a Window into Human Nature

The Stuff of Thought: Language as a Window into Human Nature


第3節で極端メタファーメタファー説,つまり私達の思考はすべてメタファーの組み合わせだという考え方を否定した.第4節ではメタファーを使う思考の底には何があるのかを考える.


ピンカーはここでレイコフのMITの同級生ジェフリー・グルーバーにより発見され,別の同級生レイ・ジャッケンドフにより発展させられた概念メタファー穏健説を紹介する.


この説明は動詞の使用例から始まっている.Go, be, keep などの動詞は場所だけでなく状態,所有,時間にも使えるという現象から考えていこうということだ.

The doctor kept Pedro at home.
The doctor kept Pedro healthy.
Pedro kept house.
Pedro kept practice session at noon.

これらの動詞が場所以外に拡張するときに何が生じているのか.ジャッケンドフによると拡張に際して意味が保たれる部分と保たれない部分があり,保たれる部分は空間や動力学的なスケルトンの部分だということになる.そしてこのスケルトンは意味論の中でラベル付けされる.場所,状態,所有,時間だ.
だからこれはメタファーではなく,基本的なスケルトンが物理的に共通していることから来る拡張だといっているようだ.


日本語ではどうだろうか.なかなか難しいが,keep に関しては「とどめる」を考えると,このような特徴をある程度持っているようだ.

将軍は軍をその地にとどめた.
C.C.はルルーシュを記憶喪失状態にとどめた.
教務主任は体育の事業を3コマ目にとどめた.


ピンカーは,なぜ(進化的に,発達的に,歴史的に)場所に関する心の仕組みは,時間や所有に関連したのかについて次のように説明している.
たとえば「AがBをCに動かした」とすると,それまではBはCのところにはなく,そのときにBはCのところにある,ということは場所,時間,因果に共通している.このため推論エンジンが共通にできるこのような拡張が適応として進化したのだろうという.
時間は空間と似ているので,空間把握の道具を使って時間を推論できる.同じように力学についての道具で,排他律を推論できる.このため空間と力に関する言語が人の話にあふれているということになる.


そしてそうであれば,メタファーは,アナロジーが働く場面で有効であり,さらによくできたメタファーはメタファーのもとのパーツがわかるようにほのめかされている.例えば「旅」がその必要なパートA,B,Cに分けて提示される.そしてそのメタファー「ロマンティックラブ」のパーツX,Y,Zに対応するように示されるのだ.



ここからピンカーは科学におけるメタファーの役割について考察している.


メタファーは問題の解決の役に立つことがある.
例としてあげられるのは,合成繊維で最初に絵の具刷毛を作ろうとしたエンジニア.合成繊維で作るとどうしてもむらが生じる.ここで誰かが「結局刷毛ってポンプの一種だろう」といった.液体をどう動かすかという観点で調べると刷毛が壁とのあいだに作る角度が液体を導く鍵になっていることがわかった.そして問題を解決できた.


このような問題解決で本当に重要なのは,単にそれぞれのパーツが似ているだけでなく,そのパーツ同士の関係も似ているかもしれないと気づくことによっている.パーツ同士,そしてさらに関係同士の関係が似ていることが重要なのだ.
ジェントナーとマイケル・ジェジオロスキーはこれがまさに科学にアナロジーを使うときの本質だといっている.



しかしこれは思ったより簡単ではない.
現代以前のほとんどの科学者と現代の偽科学者は気ままにメタファーを混ぜ合わせ,連結を切り貼りし,表面的な類似性にとらわれる.錬金術師は太陽と黄金を黄色だからと関係づけた.空は錫でできていてジュピターは空の神だから木星を錫に,ゆっくり動くから土星を鉛に関係づけた.こじつけは関係を強化すると考えられたが,現代の科学から見ればばかげている.

今日,あやふやなシンボリズム,浅い類似性,気まぐれなマッピングは多くのいかさま治療の証明だ.例としてはホメオパシー,民間治療薬による類似性利用(勃起障害にサイの角)数字の一致を利用するカバラ主義,人形を突き刺すヴードゥーなどがある.


ピンカーは本当に優れた科学の書き手はピンポイントのアナロジーしか使わないと指摘し,例としてはドーキンスの文章を紹介している.彼は複雑な問題を優れたアナロジーを用いて説明しながら,読者が間違えそうなときには予防線まで張っているのだ.



第5章 メタファーのメタファー


(4)メタファーの下に