「The Greatest Show on Earth」 第9章 大陸たちの方舟 その2

The Greatest Show on Earth: The Evidence for Evolution

The Greatest Show on Earth: The Evidence for Evolution



第9章は,ダーウィンの「種の起源」へのオマージュとしてのドーキンスの語る進化の証拠としての「生物の地理的分布」.
ドーキンスは「鳥のあまりいない諸島に,大陸から1種が渡ってきて,それが様々に変化した」というダーウィンのビーグル号の博物誌の記述を中心に,それが世界中で観察できることを説明している.

しかし当然ながら,それだけでは説明できない生物分布もたくさんある.ダーウィン自身「種の起源」で1章をさいて解釈が難しい地理的分布を説明しようとしているところだ.そしてその中でダーウィンの時代から比べて大きく知識が前進しているのは大陸移動についてである.本章の後半でドーキンスはこの大陸移動を取り上げている.


ドーキンスはウェゲナーのオリジナルな学説から始めて,大陸移動プレートテクトニクスに関する学説史を解説してから,大陸移動の証拠(海嶺を挟んで東西で対称になっている海底のリソスフェアのサンプルの岩石の年齢と磁気ストライプ)を説明している.この段落の最後ではこんな明白な証拠はワトソン博士でも見逃すはずはないと軽口をたたいていて愉快だ.「Elementary, my dear Watoson.」というわけだ.(この台詞はオリジナルのコナン・ドイルにはないというトリビアまで脚注にある.ドーキンスも実はシャーロキアンなのかもしれない)


そして大陸移動があったことを前提にすると生物の地理的分布はさらに進化の証拠として揺るぎないものになる.ドーキンスは「祖先の物語」でも振っていたお気に入りの走鳥類の地理的分布をゴンドワナ大陸の分裂とともに語っている.
ここで創造論者は「進化」は否定するくせに「大陸移動」自体は否定せずにそれが非常に速く生じたと言い張るのはとても奇妙だと皮肉っている.確かに何となく首尾一貫していないように思われる.生物進化なら否定しきれると感じるのだが,鉱物の化学組成が出てくるような「地質学」についてはやや苦手意識があるのだろうか?


ドーキンスはこの地理的分布からの証拠についてはジェリー・コインの「Why Evolution is True」でうまく説明していると,もう一度この本を紹介し,コインの描く創造論者の姿勢「創造論者は今や進化の証拠について議論しようとせずに,ただその存在を否定するだけだ」も引用している.



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