「Spent」第16章 ディスプレーする意思 その1

Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior

Spent: Sex, Evolution, and Consumer Behavior


現代の消費者中心主義とディスプレーする心の問題に対するハウツウ処方.前章では個人的に何ができるかを考えたミラーは,本章では社会的,政治的に何ができるか,あるいは制度設計によって問題が解決できるのかどうかを考察する.

設問は「私達は,皆が幸せになるためには,ディスプレーする意思をどう制御すればいいのか」ということになる.この章でもミラーは様々な手法を議論する.ポイントはディスプレーの戦局を非対称なものに変えるということだ.つまり真正面からディスプレーをやり合うのではなく,非伝統的なゲリラ戦に持ち込むのだ.ここでは「中世の領主は,吟遊詩人が音楽で彼等の妻を誘惑するのを卑怯だと考えたし,エルビスが腰を振るのもオーソリティには評判が悪かった.」とコメントしていている.
ミラーはまず,うまくいきそうもない方式から議論する.

  1. 特性値を刺青で表示するシステムを導入する.こうすれば商品を購入してディスプレーする必要がなくなる.パーソナリティは簡単に測定できる.この方法の最大の問題は,これがワークするかどうかだ.(ミラーはアルバカーキに住んでいると多くのヒトが刺青を入れているので,刺青という手法自体はそれほど馬鹿げたことには思えないとコメントしている)そしてもし社会的に受け入れ可能になれば,(そしてフェイクの問題が解決されれば,あるいは信号にコストがあるなら)みな正直な信号を刺青した方が得になる.(これは信号理論からの帰結だ.特性値の低い人も表示しなければ最低値と間違われるので表示する方が得になる)ミラーは,しかし私達の認知システムが現在の方式に調整されているのでうまくいかないだろうとコメントしている.私には自発的な表示ということであればフェイクの問題の方がずっと大きい気がする.
  2. 刺青表示は無理でも,直接的にパーソナリティ特性にアセス可能なときはできるだけ利用するという方式は有効かもしれない.ファーストデートの前には相手についてのピアレビューやその他のデータをできるだけ集めた方がよいかもしれない.これはネットの発展によってある程度可能になりつつある.
  3. 何らかの特性を証明した消費者にのみ購入可能という商品を企画する.外向性スコアが高い人にだけ購入可能なハマーのオプションや,IQテストのスコアで130を超えた人だけに売るレクサスのカラーオプションなどはどうかということだ.ミラーは企業側にはブランド価値戦略として導入動機があるのではないかといっている.しかし私にはやはりフェイクの問題が解決できないだろうと思われる.IQオプション車はすぐにネットオークションでプレミア付きで取引されるだけではないのだろうか.
  4. 政府によりディスプレーの規制.ミラーは,これは官僚制を肥大させるだけでなく,すぐに規制のループホールが見つかり,別の形態のゲームに変わるだけだとコメントしている.江戸時代の贅沢禁止令が想起される.