Virtue Signaling その23


Virtue Signaling: Essays on Darwinian Politics & Free Speech (English Edition)

Virtue Signaling: Essays on Darwinian Politics & Free Speech (English Edition)

  • 作者:Geoffrey Miller
  • 出版社/メーカー: Cambrian Moon
  • 発売日: 2019/09/17
  • メディア: Kindle版
 
ミラーは,前節でまず人類の進歩に貢献したアスペルガー/自閉症スペクトラム該当者たちの苦境を説明した.
ではアスピー以外のニューロダイバージェントな人々にとってはどうなのか.ミラーはそこを詳しく解説する.
 

第6エッセイ 言論の自由に関するニューロダイバーシティの擁護 その4

 

ニューロダイバーシティの様々な態様

 

  • 抑制的なスピーチ規範は自閉症スペクトラムにいる人々にとって重い負担になる.そういう人々は全人口の1%程度を占め,アカデミアでは,そしてとくにSTEM部門(自然科学,テクノロジー,工学,数学部門)のアカデミアではさらに多くの割合を占めている
  • 自閉症スペクトラム以外にもスピーチコードの理解と実践に困難を感じるニューロロジカルな障害やパーソナリティ障害を持つ人々がいて,やはりアカデミアにおいて(全人口比より)多くの割合を占めている.いくつか例をあげてみよう.
  • ADHD(3%):衝動性が高く不適切な言辞を口走る傾向がある
  • トゥーレット症候群(1%):猥褻な言辞,侮蔑的な言辞についての抑制不可能な衝動が沸き起こることがある.
  • 社会コミュニケーション障害(新しい診断で頻度は不明):文脈や相手に合わせて言語を適切に使用する能力に欠け,微妙で曖昧な言語の行間を読むことができない.
  • PTSD(8%):過去のトラウマがトリガーになると反射的な怒りや攻撃的な言辞の抑制が困難になる.
  • 双極性障害(4%):躁期にはエキセントリックになり,抑制が弱まる.
  • 統合失調スペクトラム障害(5%):しばしば異常なコミュニケーションスタイル,奇矯な社会的態度,エキセントリックな考えを持ち,それはしばしばオバートンウィンドウを逸脱するものになる.
  • クラスターAパーソナリティ障害(パラノイド,スキゾイド,スキゾティピカル)(4%):奇矯な社会的態度,スピーチパターンを持ち,それはしばしば感受性に欠けたものやオフェンシブなものになる.
  • クラスターBパーソナリティ障害(ヒストリオニック,ナルシシスティック,境界性,反社会性)(2%):衝動性が高く,注意力散漫で,感情的に不安定.共感に欠けることもあり言動がしばしば社会規範を逸脱する.

 

  • ここで挙げた人口比には不正確なものもある.そして1つより多くの障害を抱えている人もいる.しかしすべて合わせるとおそらく大学内の人口の20%程度はこれらの問題を抱えているだろう.これは学生人口比ではヒスパニック(17%),ブラック(14%),LGBTQ+(7%),非合法移民(7%)より頻度が高いのだ.
  • そしてこれらの症状のピークは典型的には学生である頃になる.大学は彼等が最も規範遵守能力に欠けているときに規範遵守を求めていることになる.

 

  • そしてこのような障害以外にもビッグ5の分布の端っこにいる人も多い.それもスピーチコードの遵守には問題を引き起こす.低い誠実性は衝動性の高さ,不注意,短視眼的なスピーチを予測する.低い協調性は怒りっぽく,オフェンシブで気むずかしいことを予測する.高い開放性は異常な信念を持ちやすく,エキセントリックな行動を行うことを予測する.つまりこれらはスピーチコードの逸脱を予測するのだ.また高い外向性はハイパー社会的,ハイパーセクシャル,ハイパーバーバルなことを予測し,特に性的なスピーチコードを逸脱しやすい.
  • ビッグ5はすべて相応の遺伝率を持つ,つまりこれらのスコアが極端なためにスピーチコードの遵守が困難な人々を弾圧するのは遺伝的な傾向を罰しているのと同じことになる.

 

  • パーソナリティ障害や,極端なパーソナリティのほかにも,大学キャンパスには低血糖,ストレス,薬の副作用,カフェインやリタリンなどのスマートドラッグの作用などで一時的にニューロダイバージェントになる人々がいる.また20%程度の人々は睡眠障害であり,睡眠障害は抑制機能を低下させることが知られている.これらの一時的な状態も社会的感受性や心の理論,言語抑制に問題を生じさせ,スピーチコードをうまく扱う能力を低下させる.
  • 大学がキャンパス内で疲労,飢え,薬,コーヒーを違法化しない限り,すべての人のスピーチが100%スピーチコードに従っているという状態を保つのは難しいだろう.

 
コーヒーは極端だが,いいたいことはわかる.スピーチコード戦士たちは,いろいろな事情でその遵守が困難な人々の苦境を無視しているということだ.