読書中 「Narrow Roads of Geneland Vol.3」第11章

Narrow Roads of Gene Land: The Collected Papers of W.D. Hamilton: Last Words (Narrow Roads of Geneland: The Collected Papers of W.D. Hamil)

Narrow Roads of Gene Land: The Collected Papers of W.D. Hamilton: Last Words (Narrow Roads of Geneland: The Collected Papers of W.D. Hamil)


Between Shoreham and Downe: Seeking the Key to Natural Beauty

第11章は第9回京都賞受賞の際の講演録 1993年(この本では1996年となっている,あるいは講演録が刊行されたのは1996年なのかもしれない)
これも「虫を愛し,虫に愛された人」に日本語訳が収録されているので,手元で参考にしつつ読書.とにかくなかなか難解な英語です.ハミルトン博士は講演下手で知られているので実際にこの通りのものを英語で聞いたらなかなかヒアリングは困難だったのではないだろうか.原文を読んでよくわからないところが訳でわかったり,逆に訳でよくわからなかったところが原文でようやく意味が通じたり,いずれにしてもナチュラリストらしく詳細にこだわる文章で原文には独特の味があります.

こうやって久しぶりに読んでみると,まずヒトにはヒト指向人間とモノ指向人間があって自分は後者だと言い切る導入が素敵で引き込まれます.(しばらくあとで両者が多型になる集団の有利さというくすぐりも入ります)つづいて子供の頃のナチュラリストの目覚めの部分が魅力的.細かなケント州やらダウンの話も出ますが,英国の地理はグーグルで検索しながら読むと楽しい.ブレイクとパーマーの絵もグーグルのイメージサーチで見ながら読めます.(いや本当にネットは便利になりました)ブレイク,パーマーの理想主義と進化のユートピア的側面が結びつけられ,ダーウィンの科学的な側面とが対比される視点が語られます.
しかしこの講演の白眉はやはり優生学へのハミルトンのこだわりでしょう.性と組み替えの進化的な理解からは,集団の多型の重要性が得られ,集団の変異を下げる優生的な考え方は不可能だと論じます.しかしその一方で,有性の理論からは組み替えで不利になったゲノムが集団からのぞかれていくことの重要性が力説されます.そしておそらく聴衆も読者の引いてしまうであろうところ(胎児,新生児の淘汰的な死亡についての見解)まで踏み込むその姿勢の真摯なこと.うーんやはりハミルトン博士はすごい.