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本年のHBESJは広島修道大学での開催.今年は完全なハイブリッド開催とはならなかったが,口頭発表や招待講演はオンラインで配信があり(ポスター発表が対象外),今年もオンラインで参加することとした.会場の配信だけでもいろいろと準備や運営が大変だと思われるので,ここで感謝の意を表しておきたい.
大会初日 12月7日
実行委員会挨拶 中西大輔
- 今回の参加者は126名.前回広島で行ったのが2013年で,その時より参加者が増えている.他の学会では参加者減少が取りざたされているところが多いので,大変喜ばしいと思っている.ポスター発表も増えたので,二部制をとることにした.よろしくお願いしたい.
口頭発表セッション 1
人口転換における二つの普遍的経路 板尾健司
- 人口転換とは,前近代社会の出生率,死亡率ともに高い状態から近現代社会の両方とも低い状態への移行のことをいう.実際の過程は,衛生環境の改善などでまず死亡率が大きく下がり,人口が増加し,その後出生率も下がって少産少死社会になるという形で進む.さらに多くの先進国では人口減少のステージに入っている.
- 人口学ではこの転換を第1次転換,第2次転換に分ける議論が主流だ.これは転換に相があるという主張になる.またこの転換の様相に西洋独自性があるか,女性の生涯出生率が2を切る時に何らかの相変化があるか,GDPとの関連,近代成立期との関連など議論が多い.
- そこで実際にどのようなパターンがあるのかを195カ国200年の国連のデータを用い,粗出生率(人口1000人辺りの出生率)λと平均寿命 e0 の関係を調べた.
- 縦軸λと横軸 e0 の平面上をある国がどう動いていくかをプロットすると,大きく2つの経路が現れた.1つはλと e0 の積が一定の経路(λ* e0 =1400),もう1つがλと exp(e0)の積が一定の経路(λ* exp(e0) =1100)だ.(前者を経路1.後者を経路2と呼ぶ)
- (ここでいくつかの国の歴史的経路が示される)1つの国は最初経路1の上を動き,どこかで経路2に乗り移るような挙動をみせる.西欧の国は1の時代が長く,新興国は2の上が長い.この2つの経路は地理的にもメカニズム的にも異なる異なる相だと考えられる.経路1では乳児死亡率が高く,人口成長率が一定で,経路2では乳児死亡率が低く,1人あたりGDP成長率が一定だ.
- ここで親の子供に対する投資に注目し,出産・教育のコストと繁殖成功のトレードオフ(教育には初期コストがかかるが後の生産性が向上する:教育効率,投資の非線形性,コスとの大きさをパラメータとする)の観点からモデル化した.これによると平均寿命が閾値を超えると教育が有利になり,経路1から経路2に移行することが示された.
データから得られた経路と相転移を上手くモデル化しており,なかなか面白かった.
スパーシャル AI と法:道路交通に関する法情報を帯びた空間におけるエージェントのシミュレー ション 大塩浩平
(SNSでの言及不可とされているものについては,公開されている発表要旨範囲内の簡単な紹介にとどめておく.以下同様)
広島の交通事故の判例をデータとし,スパーシャルAIの開発を行う試みについての発表
音象徴と言語の恣意性を表現する Bayesian Iterated Learning Model 八丸世旺
- 言語の特徴として,(音と意味の間の)恣意性と離散性が良く指摘される.恣意性については擬態語などについて音象徴性がある部分もあることも示されており,そういう場合には音の連続性も重要かもしれない.しかしこれまではここはあまり調べられていない.そこで,この恣意性と音象徴が共存している場合のモデルを作成した.
- 具体的には先天的な音象徴バイアスを持ち,その上で音と意味の対応をベイズ推論するILMモデル(親世代の言語使用を情報とし,文脈のもと子世代が語の意味をベイズ推論し,世代交代する.モデル内では文脈(ディリクレ分布),対象(カテゴリー),音(正規分布)が処理され,音処理にバイアスが入れ込まれている)を構築した.
- <結果>
- 音象徴と恣意性の共存が再現できた.
- 音象徴バイアスにより恣意性が変化し,収束速度も変化した.バイアスが小さいほど最終的に収束する意味の分散は小さくなった.
- バイアスの中心に必ず収束するとは限らなかった.
モデルの挙動は平面上にバイアスとしてある点が示されて,その周りに意味の推論点が散らばり,収束していくという形で示された.なかなか楽しい発表だった.
文化形質の切替えが祭儀等イベント時に起こるとき,同調性バイアスがないにも関わらず初期頻度が普及の決め手となる 吉﨑凜人
文化進化についての発表.
- 文化的に新しいものがどのように広がるのかについては,単純な数理モデル(ロジスティックモデル)と実際の統計的な記録にはズレがある.これは同調性,バイアス,相互作用などで説明されてきており,多くのモデルがある.しかしこれまでの研究では採用形質の切り替えのタイミングがすべての個体で一斉にアプデートするか,連続的にアプデートする前提だった.
- しかし,A→BとB→Aを促すイベントが別々であるような場合も考えられる(普段は鉄斧を用いるが,祭りの際には石斧を交換するオーストラリアの民族がヒント).そこでこのようなイベントが交互に生じるモデルを構築して調べてみた.
- すると頻度依存的な動態が現れ,関連イベントが先行する方が初期頻度が小さくとも固定可能になった.魅力度を入れると挙動はさらに複雑になり,初期頻度と関連イベントの先後によっては魅力度が低くても固定可能になることがわかった.
交互イベントをモデルに組み込むと,頻度が上がったり下がったりの鋸状の推移になる.乗り換え人数はイベントタイミングの頻度と相関するので,イベントの先後により挙動が変わってくるということになる.パズル的な面白さの発表だった.
口頭発表セッション2
進化精神医学に関する諸仮説の検討 髙野覚
人類学を学んだあと精神科医となった発表者による,精神科医療現場において過剰診断・過剰投薬がなされているのではないかという問題意識からの発表.
- 恐怖と不安については進化精神医学でよく議論されている.
- ヘビ恐怖については進化環境での重要性,遺伝性があること,適応的な意義,現代環境でのミスマッチなどが議論されている.
- 高所恐怖は垂直加速に対する恐怖であり,10メートルぐらいからかなり強く現れる.経験よりも遺伝的要因の方が大きく,適応的意義は落下の危険防止と考えられる.水平加速に対してはこの恐怖は発現せず,交通手段が大きく発展した現代環境とはミスマッチになっている.
- 不安については,有用な危険予測の過剰であり,火災報知器の原理が働いている.遺伝要因が強く,性差がある.精神科医療現場では女性によく見られる不安過剰が取り扱われる.男性に多いと思われる不安過少にも問題があると思われるが実際に医療現場で対象になることはない.
- うつについても進化精神医学ではいろいろな議論がある.
- よくいわれるのはうつは発熱に似た防御反応だろうということだ.どのような防御かについてはアタッチメント仮説,援助希求仮説,ランク仮説,情動的疼痛仮説などいくつかの考え方がある.うつについてもなりにくさにもリスクがあると考えられる(過労死など).
- 至近的には「望ましい何かを得られないこと」がセロトニンレベルを低下させて生じると考えられている.
- 「うつ」をセロトニンレベルを変える薬(抗うつ剤)によって治療するのは,原因を解決せずに症状だけ抑えようとするもので,解熱に似ている.場合によっては環境悪化や治癒遅延に繋がりかねない.
- 現在はSNS,監視管理の強化,安心安全を強調するなどにより,よりうつに陥りやすい社会環境があると考えられる.私はそこに自己家畜化過程が働いて,よりリスクが高くなっていると考えている.
- 現在動物園や家畜や実験動物の扱いについてアニマルウェルフェア,環境エンリッチメントの考え方が提唱されている.進化環境と異なる現代環境(特に見知らぬ多くの人との協働を迫られること,共同育児があまりないことなどのストレス要因)に生き,自己家畜化が進んだヒトについても同じように考えていくべきではないか.
- 統合失調症,双極性障害,様々な発達障害も進化環境では淘汰されずに残っているが,現代環境では病気扱いされて治療の対象となる.
- (進化環境では問題なさそうな患者についての)過剰診断を抑え,(進化適応を無視し,単に症状を抑えようとする)投薬治療ではなく,より環境エンリッチメント的な行動療法を取り入れて対処していくことが望ましいと考える.
協力評判管理メカニズムの発達経路: 子どもはいつから他者の目だけでなく将来の相互作用の可能性を考慮するようになるか? 新井さくら
- 協力問題の1つの解決は互恵的協力だ.このような互恵的関係を築くには,いかにしてパートナーを選ぶか,いかに選んでもらうのかの2つの課題がある.ここでは後者を考える.
- いかに選んでもらうのかは,基本的に評判の管理の問題になる.
- 成人においては,観察されている時により協力的になる,将来の相互作用が予想される場合により協力的になることが報告されている.
- では発達的にどうなのかについてはこれまであまりリサーチがなかった.
- そこで小学1年~中学3年までの459人で単一手続で調べた.ペアで独裁者ゲームをやってもらい,観察者の有無,将来の相互作用の可能性,将来協力してもらえる可能性をコントロールした.
- 結果,観察者の有無以外の手がかりは効果がなかった.さらに観察者の有無は小学校低学年と小学校高学年および中学生で逆の効果が現れた.小学校低学年では(成人と同じく)観察者がいる方が協力的だったが,小学校高学年と中学生は観察者がいる方が非協力的になった.
- これは互恵的協力のための評判管理方略の発達過程が非線形であることを示唆している.
- なぜ小学校高学年から中学生にかけて成人と逆の方略をとるのかについては,思春期において大人に搾取されないために「よいこである」ことから脱却するような適応方略が現れるためかもしれないと考えている.
これは直感的な推測と全く逆の結果が示されており興味深い.
Effects of bonus and sanction on the evolution of cooperation in the finite linear division of labor where the process never stops for defection Md Sams Afif Nirjho
分業の協力進化に関する数理モデル発表
はなぜ不平等場面の目撃を避けようとするのか -直接罰と間接罰の比較- 三石宏大
第3者罰ゲームでは,傍観者も個人的コストを払って第3者罰を行う傾向が示されているが,(そのコストを避けるために)不平等場面の目撃回避が可能であればどうなるかを調べたもの
以上で初日のオンライン発表は終了である.現地ではこのあとポスターセッションとなったようだ.
