読書中 「Genes in Conflict」 第6章 その7

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements



ホーミングの最後.ホーミングはまずこれが利己的な遺伝要素でありドライブで広がるという現象と,これへの耐性遺伝子があればそれがもう一度広がるという2つの切り札がある.このため病原体のコントロールに広いアプローチが可能になるということがわかった.
最後の「接種的」"inoculative"なアプローチと「氾濫的」"inundative"なアプローチの議論はよくわからなかった.(残念)



第6章 遺伝子変換(gene conversion)とホーミング(homing)  その7


3. 集団遺伝学のツールとしての人工的なHEG


(4) 集団遺伝学エンジニアリング


これまではペストの絶滅を考察してきたが,絶滅でなくとも集団をより無害な形に誘導するという方向もある.方法としては遺伝子の除去.遺伝子の置き換え,遺伝子の挿入の3方法がある.

  • a) 遺伝子のノックアウト
  • たとえばハマダラカの生存生殖には無害で,マラリア原虫媒介に必要な遺伝子があるとすると,これをノックアウトするHEGが作れればドライブとともにマラリアの媒介を阻止できる.
  • b) 遺伝子の置き換え
  • ハマダラカの遺伝子を蚊の生存生殖には無害だが,マラリア原虫を殺すような遺伝子があるとすると,この効果を持たない対立遺伝子をターゲットにするHEGと,当該対立遺伝子(これは認識されないので耐性遺伝子となる)をセットで導入すると,耐性遺伝子のみが広がる.
  • c) 遺伝子のノックイン
  • たとえばマラリアの媒介を不能にするような新しいハマダラカの遺伝子をデザインできたとする.この遺伝子を中立的なサイトをターゲットにするHEGと緊密に連鎖させて集団に導入すればよい.
  • また生存に不可欠な遺伝子をターゲットにするHEGを導入し,これの耐性遺伝子に新しいデザインされた遺伝子を連鎖させてもよい.

注意すべきなのは,もしこれで広めようとする遺伝子が,蚊の生存生殖にとって少しでも有害なら,進化的に安定でないことだ.これを抑える変異の方が害が少なければいずれそのような変異が固定するだろう.ただ有害の程度が小さく,変異率も小さければ幾ばくかの時間は稼げる.


トランスポーザブルエレメントや細胞質不和合性を利用しようと主張している人たちもいる.しかしHEGにはいくつかの相対的なメリットがある.HEGはトランスポーザブルエレメント(変異率が高くゲノムの位置も不安定)よりも容易に進化的に安定にできる.細胞質不和合性による解決にはより時間がかかるし,核遺伝子には挿入できない.また両方とも水平伝達のリスクが高い.またリバーシブルでもない.


(5) その他の用法


このほかにHEGの潜在的な使い方がある.
ドライブを行うY染色体は集団を絶滅に追い込める.Y染色体にX染色体のシークエンスを認識するHEGを埋め込むと精子にYドライブがかかる.
一部集団のみの絶滅を図るには(少数の個体に導入する)「接種的」"inoculative"なアプローチより(不妊オスを放すような)「氾濫的」"inundative"なアプローチの方が自己制限的なのでよい.この場合メスを優性の場合に致死や不妊にする遺伝子をターゲットにするHEGが「氾濫的」アプローチとして使える.メスの優性致死効果のあるノックアウトはあまりないが,すべての組織で活性のあるHEGなら接合子でヘテロでもホモに変換できる.このような状況なら引き続き劣性のメスの遺伝子座をねらえる.HEGが遺伝したメスは致死か不妊になりオスのみがHEGを次世代に伝える.ドライブ効率が完璧(c=1)でない限りいずれHEGはなくなるが,相当の負荷を集団にかけることができるだろう.このようにプロモーターを変えることにより隣の集団への悪影響を防げることになる.このようにすれば不妊オスを放つ方法より効率的にできる.((私見)ここはよくわからなかった)