読書中 「Genes in Conflict」 第7章 その1

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements



今日からはトランスポゾン.マクリントックがトウモロコシのつぶつぶの色から遺伝子が動いていることを発見したのは有名な話だが,実際に研究が進んだのは最近のことらしい.今日の新聞にはウマとウシとコウモリの3種の中ではウマとコウモリの方が近縁であることがレトロポゾンの解析からわかったと報じている.生物のゲノムのかなりの部分をこのトランスポゾンが占めているというのも,考えてみるとなんだかすごい話である.



第7章 トランスポーザブルエレメント(転移因子)  その1


トランスポーザブルエレメントはもっとも広がっていて,複雑で,珍しいドライブを行う.これ以外の利己的な遺伝要素はある特定の遺伝子座を巡って争うが,これはゲノムの中の新しい場所にコピーを作ることにより広がる.実際のドライブ頻度は小さいがあるゲノムに数千のコピーがあることもある.
また種を越えた水平伝達も行う.この結果ほぼすべての真核生物にみられ,そしてそのタイプに驚くべき放散がみられる.ある個体のゲノムには複数のトランスポーザブルエレメントの複数のコピーが普通にみられる.様々なメカニズムや発見が毎日つづいているといってよい.
これだけはびこっているので,ホスト生物に与える影響も大きい.我々のゲノムの約半分はこれからなっているともいえる.そして染色体の再構成にも大きく関わっている.当然ホストに有益でポジティブに選択を受けるものもあり,なかには共生体となっているものもある.そしてこれが脊椎動物の免疫系の進化に大きく関係しているのだ.
トランスポーザブルエレメントは1952年,マクリントックによりトウモロコシの遺伝子の連鎖が世代により大きく変異することから発見された.最初の研究はなかなか進まなかったが,分子生物学の勃興とともに研究が進み,1982年からは遺伝子エンジニアリングにも用いられるようになった.またこれはレトロウィルスとも関係が深い.
本章ではとてもすべては説明できない,進化的な視点で面白いものをこれから説明していく.


1. 分子的構造とメカニズム


3つの全く仕組みの異なるトランスポーザブルエレメントがある.
トランスポザーゼというカットペーストを行う酵素エンコードしているDNAトランスポゾン.LINEと呼ばれるRNA経由で転移するもの,やはりRNA経由で転移するが,複雑なLTRレトロトランスポゾンである.
またこれらにはコピー機能を持たないDNAシークエンスに寄生されていることがある.


(1) DNAトランスポゾン


DNAトランスポゾンでよく知られているものには,最初にトウモロコシで見つかったAcDsショウジョウバエP因子などがある.
大きさは1-10kb,1個(まれに2個)のタンパク質をエンコードし,両末端にそれぞれ逆向きの繰り返し領域を持つ.このタンパク質はトランスポザーゼと呼ばれ,トランスポゾンの両端の特定部位を認識し,そこをカットして別のDNAに挿入する.(231ページの図)移動場所は元の場所に近い方が確率が大きくなる.
カットアンドペーストにもかかわらずコピー数が増える仕組みは以下の通り.
P因子は細胞の染色体修復システムを使う.DNA複製のあとで細胞分裂の前に転移を起こすと,元の場所は相同配列から修復が起こりコピー数が増えることになる.修復システムが完全でない場合にはP因子に脱落等の変異が起こる.
Acでは別の方法が使われる.DNA複製が途中まで進んだところで,すでに複製されたところからこれから複製されるところに転移することがある.すると前の場所には鎖の片方に,新しい場所には両方にAcが乗ることになる.(理由はわかっていないがなぜがトウモロコシのAcでは前の場所で相同配列からの修復が起こらない.何らかの重要な機能を持つヘアピンのような構造が両端にあって,これが修復を妨げているのでないかと思われる)
最近シロイヌナズナとコメとC. elegansでヘリトロンという新しいタイプのDNAトランスポゾンが見つかった.これは転移前サイトと転移後サイトの双方で修復によるコピーが行われる.


(2) LINEとSINE


LINE(long interspersed nuclear elements) (レトロポゾンとか非LTRレトロトランスポゾンと呼ばれることもある)はRNAを使って転移する.まず自分をRNAに転写する,(この開始を決めるプロモーターは自分自身にある.このため転移先でもまたこのプロセスを開始できる)RNAはタンパク質を作り,このタンパク質は自分をコードしていたRNAをくっつけ,ターゲットDNAに刻みを入れ,RNAからDNAの逆転写を行う.最後に刻みがつながれて転移が完成する.
これは転移というより複写プロセスであり,いったん組み込まれたLINEはそこに残るし,また転移プロセスにおける劣化脱落等の影響を受けない.またこのプロセスがすべてLINE自分自身で完結しているのも大きな特徴である,これによりこの過程で機能しないLINEが作成されても,それはそれ以上複製されないだけで他に影響を与えない.


SINE(short interspersed nuclear elements)は自分でタンパク質をコードせずにLINEのレトロ転移メカニズムに寄生するものである.多くのSINEはキメラ的になっている.


ボックス7.1 サイト特異的LINE

ある種のLINEはホストゲノムの特定のサイトにのみ挿入する.これはタンパク質の認識が特定シークエンスに対応している場合に起こる.中には別のトランスポゾンを標的にするものや,すでにある自分自身の配列を標的にするものまである.(トランスポゾン戦争!)
進化はこのような特異性をどうやって保持させるのだろう.特異性を劣化させたトランスポゾンはより広がりやすいように思える.おそらくホストに有害効果を与えないような標的特異性や自分自身が発現しやすいような標的手特異性はより広がりやすいのだろう.rDNAクラスターに列になって広がる方が,ゲノム全体にばらまかれるよりホストにとっての害が小さいと思われる.
ただどうもすべてのLINEの共通祖先配列は認識サイトの特異性を持っていたように思われ,少なくとの一度は特異性消失の進化が起こったようだ.

(3) LTRレトロ要素


LTR(long terminal repeat)レトロ要素は少なくとも2つの構造タンパク質と3つの酵素をコードしている複雑な利己的遺伝要素である.逆転写を行う酵素はLINEのものと相同で,インテグラーゼはトランスポザーゼと相同である.おそらくこれはトランスポゾンとLINEのキメラが起源だと思われる.
カニズムは以下の通り.
まずRNAに転写される.そしてタンパク質を発現させる"samatic fate"か,そのタンパク質の助けを借りてカプセルに入り(このときな2本のRNAが一つのカプセルに入る)DNAに逆転写されて"germ line fate",核DNAに組み込まれる.(あるRNAはこのどちらかの運命をたどり両方の機能を持つことはない)
LTRレトロ要素の端末部分が組み替えを起こすと(実際に起きるのだが)この要素だけくくり出されてゲノムから切り離されてプラスミド状になることがある.
転移自体は他のメカニズムに寄生する形でもよいが,転写,パッケージ,逆転写は自分自身の中にプロモーターを持って始める必要がある.
脊椎動物にはERVと呼ばれる生殖系列に入り込んだレトロウィルスに見えるものがある.このほかにもまだよくわかっていないものも多い.