「生命進化の物語」


生命進化の物語

生命進化の物語


オックスフォードの重鎮生物学者サウスウッドによる大学1年生向けの生物進化の講義から生まれた本.地球誕生から現代に至るまでの生命の歴史が簡潔に描かれている.
本書の最大の特徴は非常に客観的で偏らない記述であり,かつ最新の知見にきちんと目が行き届いているところだ.またこの手の他の本に比べて植物をきちんと取り上げているところも本書の良いところだ.陸上植物の進化を考えるときに,その形について太陽光線の獲得競争から語られるにとどまらず,雨と風に対する適応としての構造に触れられているところなどは新鮮だ.(葉の形が雨滴に対する適応だというくだりは面白い)そしてそのような個別適応の結果として豊かな森林の生態系が生まれると説明されている.海の生物についても同様の観点から礁の重要性が指摘されている.


個別の議論で興味深かったものを順不同であげると,バージェス動物相についてはグールドよりモリスよりの連続性を重視した解釈が支持されている.昆虫の羽根については鰓から進化したという説が支持されている.大絶滅についてはそれぞれの時期ごとに細かく考察され,単純な一原因が繰り返し起こったのではないだろうとされている.鳥類については恐竜からの待ち伏せ飛び降り型からの進化説を支持しており,指の相同問題についてはこれが遺伝的なスイッチの切り替えにより生じうるだろうと説明されている.

奇蹄類の進化で初期のウマはテリア犬ほどの大きさだと書いてあるのは,グールドのフォックステリアエッセイを読んだことのある読者へのちょっとしたくすぐりだろう.そして奇蹄類と偶蹄類の適応上のトレードオフと,どのような環境でどちらが有利であるかを解説してあるところは自然淘汰に目配りを忘れないところで,なかなか類書にない読んでいて楽しい部分だ.ゾウの長い鼻についても適応的に議論されていて楽しい.
最後の人類が巨大獣の絶滅を引き起こし,ある種の生物を家畜化したこと,環境を破壊し,温暖化を引き起こしつつあることを説明して本書は終わっている.


読んでみて生命の歴史は大陸移動,全球凍結,酸素そのほかの分子・ミネラルの濃度とは切っても切れない関係があることがよくわかる.この本はそのような大きな構図をコンパクトに示してくれる良書だと思う.特に筆者の著述スタンスが,英国の学者らしく常に自然淘汰の観点から生物のことを説明しようとするものになっており,それが隅々まで行き届いて,筋の通った楽しい物語に仕上がっていると思う.