「なぜ・どうして種の数は増えるのか」

なぜ・どうして種の数は増えるのか: ガラパゴスのダーウィンフィンチ

なぜ・どうして種の数は増えるのか: ガラパゴスのダーウィンフィンチ


以前私が書評したPeterとRosemaryのGrant夫妻による「How and Why Species Multiply」が「なぜ・どうして種の数は増えるのか: ガラパゴスダーウィンフィンチ」という邦題で邦訳出版されるようだ.(1月25日出版予定)
ガラパゴス諸島に生息するダーウィンフィンチはダーウィンがビーグル号に乗って訪れたときに採集してその名がついていることで有名だ.実はダーウィン自身は採集時にはそれが島ごとに別種になっていることに気づいていなかったことも最近ではよく知られている.「種の起源」でもガラパゴスの鳥類はフィンチではなくマネシツグミの方がとりあげられているぐらいだ(第12章 地理的分布 ガラパゴス諸島の生物).しかしダーウィンフィンチの適応放散振りについてはデイヴィッド・ラックがリサーチして有名になった.そしてそれを受け継いでリサーチを続けているのがグラント夫妻になる.
このグラント夫妻のリサーチはジョナサン・ワイナーが「フィンチの嘴」で紹介し,短期間で環境変動に応じて自然淘汰が働いていることを突きとめる様子が生き生きと描かれている.しかしグラント夫妻のリサーチはそれだけではない.本書はリサーチャー自身の手になる2007年までの総まとめのような本であり,圧倒的に密度の濃いものだ.分布,生態,起源と系統樹をまず押さえ,種分岐については特に詳しく検討されていて重厚だ.特に交尾隔離については,オスのさえずりの刷り込み学習がキーになって交尾前隔離が生じているが(交尾後隔離はなく,遺伝的には完全に繁殖力のある子孫が生まれる),時に誤学習が生じて細々と交雑が生じていることが明らかになっていて面白い.その他島々の種子の分布から適応地形を直接推定して適応の様相を仮説検証するリサーチなども迫力がある.
邦訳にあたっては巌佐庸による監修がついていて安心だ.質の高い長期リサーチの重厚さを是非多くの読者に実感して欲しいと思う.


原書

How & Why Species Multiply: The Radiation of Darwin's Finches (Princeton Series in Evolutionary Biology)

How & Why Species Multiply: The Radiation of Darwin's Finches (Princeton Series in Evolutionary Biology)

私の原書の書評はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20091127

なおグラント夫妻の2009年京都賞受賞時の講演会の様子はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20091118 参照


関連書籍

フィンチの嘴―ガラパゴスで起きている種の変貌 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

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The Beak of the Finch: A Story of Evolution in Our Time

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