読書開始 「Genes in Conflict」 第1章

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements


まだNarrow Roadsの書評は作っていませんが,次のお勉強としてRobert TriversとAustin BurtのGenes in Conflictの読書を開始してしまいました.
Trivers博士は自伝的要素も含む教科書「生物の社会進化」を早くに出版しているし,また論文集「Natural Selection and Social Theory」を2002年に出している.これらはいずれも読書済みだが,なかなか刺激的な本であった.結構アナーキーな政治信条がにじみ出ていて危険な香りを秘めている.

Natural Selection and Social Theory: Selected Papers of Robert L. Trivers (Evolution and Cognition Series)

Natural Selection and Social Theory: Selected Papers of Robert L. Trivers (Evolution and Cognition Series)

  
生物の社会進化

生物の社会進化


今回の「Genes in Conflict」についてはいろいろな紹介などを読むとトリヴァース博士にとってエポックメイキングな本のようである.博士は行動生態学の旗手として活躍したあとに,長いスランプというか精神生活の不調というかの時期があり,その後遺伝学にはまりこんで今回ようやく大著を書き上げたということのようである.
ドーキンスもこの本をエレガントな本だと推奨しているし,なかなか面白そうだったので手を出してみることにした次第である.


さて第1章 Selfish Genetic Elements


自然選択が逆方向に働くようなコンフリクト状態があると,基本はそれぞれに強い共適応が生じる.それが同種の異個体間であるといろいろな行動や集団構造の進化につながることになる.そして同個体の中で生じるとやはり複雑な結果が生じることになる.

そして「利己的な遺伝要素」を定義し(DNAの一部で他のDNAのコストにおいて自己の複製効率を上げようとするもの)その本質はメンデルの法則の50:50の比率をゆがめるものと説明し,その類型を整理している.


<細胞レベルで起こるもの>
1.対立遺伝子への干渉・・・対立遺伝子を殺す等
2.よりコピーを作ろうとするもの・・・オルガネルの複製効率増加,ホーミングエンドヌクレアーゼ(ペアの染色体にも自分のコピーを作るもの),トランスポゾン(自分のある染色体に別のコピーを作るもの)
3.ゴノタクシス・・・減数分裂でコピーされた染色体が2体とも生殖系列に潜り込もうとする
そしてこのような利己的な遺伝要素は強く連鎖していない遺伝子に抑制効果の進化を促すことになる


<血縁個体への行動を通じて生じるもの>
特に有名なのはゲノミックインプリンティング,基本的に母由来の遺伝子は胎児の成長抑制に働き,父由来の遺伝子は胎児の成長促進に働く.


このような利己的遺伝要素は抑制効果がない場合にはきわめて速やかに集団内に広まる.
通常はこのような利己的遺伝要素はホストの個体にもさらにホスト集団にも有害だが,ホスト集団には有益な場合も理論上はあり得ることに注意が必要である.


ここまでの研究.このような利己的な遺伝要素の減少は古くから知られていた(細胞質雄性不稔やB染色体は1906年から報告されている)しかしこれが利己的な遺伝要素のよる現象だという理解は割と最近のことである.現在は急速に理解が進みつつある.
研究にたとえば品種改良やペストコントロールや遺伝子エンジニアリングや医学などに有益と考えられている.


なかなか面白そうだ.理解が新しいだけあって用語も新しいようだ.本章の最後に用語解説があるのがうれしかったりする.