読書中 「Genes in Conflict」 第6章 その5

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements


今日はイースト菌の利己的なプラスミドとレトロホーミング.利己的な遺伝要素は様々に生まれ出でて,生物界に残っているのがわかる.いずれもまだよくわかっていない現象のようだ.


第6章 遺伝子変換(gene conversion)とホーミング(homing)  その5


2. ホーミングとレトロホーミング


ボックス6.2 イースト菌の2μmのプラスミド


イースト菌のある種では多くの系統が6.3kbのプラスミドを核に持っており,これは全くの寄生プラスミドである.4つのタンパク質をコードしていて,プラスミドの保持のみに関わっている.そしてこれは分裂速度を1.5-3%遅くするという明白なコストをホスト細胞にかけている.1細胞あたり100コピーほどあり,核DNAの4%を占めている.
プラスミドのある細胞からは1万から10万回に一回の割合でプラスミドのない細胞が生まれる.もし無性生殖のみであればこのプラスミドのない系統が固定するだろう.
しかしプラスミドはドライブにより保たれている.キャリアー細胞と非キャリアー細胞が融合してもすべての子孫細胞はキャリアーになる.これはこの2μmのプラスミドが細胞の分裂より早く増殖するためで,このため細胞内で蓄積されていく.子孫細胞にたった1個でもプラスミドが入ればそれが増えて普通のキャリアー細胞になるのだ.その仕組みは非常にうまくできていて,ある始点から双方向に複製を作っていき,一周したところで出会う.これだけでは細胞分裂あたり一回しかコピーを作れない.しかしこの始点に近いところに0.6kbのリバースした繰り返し領域があり,これをこのプラスミドがコードしているタンパク質との共同作用によりコピー済みの領域とコピー未了領域での組み替えを行う.この組み替えによりプラスミド全体の双方向コピーがうまくすれ違って何度もコピーを繰り返せるようになる.(214ページの図)

もっとも興味深いのは,ではなぜこのようなプラスミドはイースト菌のみで見つかり,もっとたくさん観察されないかということである.理由はよくわかっていない.

(6) グループ II イントロン


グループ II イントロンはいろいろな意味でHEGに似ている.これらは比較的単純な真核生物のオルガネルにみられるオプション的な遺伝要素で,ホストにとっての知られている機能なく,intron-染色体をintron+染色体に変更するように働く.しかしメカニズムはHEGと全く異なる.
これまで3種のイントロンが研究されており,それぞれメカニズムは異なっている.もっとも単純なものではイントロンは複機能のタンパク質をコードしており,イントロン+ホスト遺伝子をRNAトランスクリプトから切り出して.イントロン-のホスト遺伝子を探し出してそのDNAセンス鎖に当該イントロン(のRNAを)をリバース挿入する.その後アンチセンス鎖を切り,イントロンを(RNAからDNAに)リバース転写する.さいごはDNA修復システムにより修復する.
認識領域は30-35bpと長く,イントロンエンコードされているタンパク質がそれぞれ機能を持つ.RNA-DNAのペアリングを利用しているのが特徴で,全く新しい認識サイトから作り出すのが比較的容易だと思われる.
これらはRNA-DNAのペアリングを利用したホーミングなので,レトロホーミングと呼ばれる.

HEGと同じく,一度レトロホーミングが固定すると少しづつ劣化すると思われる.レトロホーミングが存続するには,ターゲットを新しい領域に変更するか,種間の水平伝達が必要である.前者は実験室では例があるが,野生状態では観察されていない.系統分析からは水平伝達や劣化の証拠はほとんど得られていない.
高等植物では葉緑体ミトコンドリアの中に劣化しているレトロホーミング遺伝子と考えられるものが知られている.ホストに何らかの利益があるのかもしれない.

バクテリアにもレトロホーミング遺伝子は見つかっている.ゲノムの中のもっとも性に関連した領域で見つかる.もともと相同染色体がヘテロになる事態がないと意味をなさないので,納得できる.

レトロホーミング遺伝子の進化的な起源は推測の域を出ない.RNAワールドからの依存遺伝要素が関係していると考える人もいる.またレトロホーミングはLINE状のトランスポーザブル要素やスプライソマルイントロンのもとになっているのかもしれない.