読書中 「Genes in Conflict」 第12章 その4

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements




要約の4番目は利己的な遺伝子の運命だ.
ドライブがホストの有害効果に対して強力ならその利己的遺伝要素は,固定するか,頻度依存要素があれば平衡頻度となる.もっとも理論的可能性としてはサイクルやカオスもあり得るだろうがそこにはふれていない.で,その後何が生じるのか?


まず固定の場合.菌類の胞子殺戮者,マターナルエフェクトキラー(胎内での息子殺し),Gametophyto Factor(花柱において自分を含まない花粉を殺す),そしてHEGで固定したと見られるものが見つかっていると説明される.固定してしまえば競合対立遺伝子はなくなるのでもはやドライブ現象は現れない,
雑種のような場合にしか発現しない遺伝子は,突然変異負荷か,あるいはホストへのコストのために退化して機能を無くしてしまうだろう.これはよく理解できる.


続いて頻度平衡の場合.頻度が増えるとホストへの有害効果が増したり性比を歪めたりするものは頻度平衡になる.このようなものはホスト集団に大きな負荷をかけるためサプレッサーの進化へ強い淘汰圧をかける.ここで非常に興味深い現象として,このようなサプレッサーがあると利己的遺伝要素の平衡頻度が上昇してしまうことが取り上げられている.言われてみればなるほどという感じ.
この場合効果的に抑制されると長期的にはこの利己的遺伝要素は絶滅するだろうという.
また特殊な理由として短期的に利己的に働く仕組みが長期的に退化しやすくなる例が取り上げられている.tハプロタイプはホストの遺伝子を300含み,4つの逆位でつながっている.短期的にはこの逆位はtハプロタイプを結びつけるのに役立っている.しかし長期的にはホストの300の遺伝子にとって組み換え減少が生じて,この遺伝子は退化しやすくなるというのだ.


最後にB染色体やトランスポーザブルエレメントにとっては固定という概念自体が当てはまらない.ホストが有害効果で絶滅するまでどこまでも増えることができる.いくつかの植物では増大したゲノムサイズのために絶滅のリスクが生じている.
もちろんこれ以上増えないようになっているものも多い.これはドライブ率がコピー数の増加により減少するかホストへの有害効果が増加するためであるとあるがここはちょっと難しい.ホストへの有害効果でトランスポーザブルエレメントやB染色体が増えるのをやめるのだろうか?そういうものがある要素はホストごと絶滅して,結局コピー率が下がるような系統のみが生き残るという淘汰になるのではないかという気がする.
これらの利己的遺伝子たちは自分自身の欠陥品を累積させてしまい,機能的な要素を追いやってしまうという.これはトランスポーザブルエレメントでは重要で,結局このようなものも長期的には絶滅するだろうという.
このような寄生的要素が累積することが,我々のゲノムに現在機能をもたない化石的な要素が多く残っている理由なのだろうと推測している.



第12章 サマリー その4


4. 種の中の利己的な遺伝子の運命


利己的遺伝要素がまず種の中で生じたとき,それがホストを害するより強くドライブすれば広がっていくだろう.その後は固定するかどこかで頻度平衡になる.どちらでも長期的には絶滅することになる.


(1) 固定と頻度平衡

ホストへ与える有害効果よりドライブが強い状態が続けば,その利己的遺伝要素は固定する.
利己的遺伝要素が増えるにつれ,ホストへの有害効果が薄れたり,ドライブが弱くなる場合には頻度平衡になる.
B染色体やトランスポーザブルエレメントにとっては固定という概念自体が当てはまらない.ホストが有害効果で絶滅するまでどこまでも増えることができる.


(2) 絶滅.

利己的遺伝子は固定するか,頻度平衡になるかを問わず,非常に長期的に見ると最終的には絶滅する.最も長く存在している例は昆虫のrDNAにみられるR1, R2, LINEで,おそらく数億年の歴史を持つ.しかしこれは例外で,ほとんどの利己的遺伝要素はもっと速く絶滅する.

何故絶滅するのか,対立遺伝子を駆逐して固定してしまった利己的遺伝子は,その後機能を必要としなくなる.そしてホストへのコストのためか単なる突然変異負荷のために退化してしまうのだろう.

別の理由としては利己的遺伝子たちは自分自身の欠陥品を累積させてしまい,機能的な要素を追いやってしまう.

そしてホストの抵抗,抑制遺伝子がある.サプレッサー遺伝子が完全にドライブを封じ込めて固定すれば,長期的には利己的遺伝子は絶滅するだろう.絶滅前の抑制状態では雑種形成等の場合のみドライブが観察される状態になる.