読書中　「Breaking the Spell」　第1章　 - shorebird　進化心理学中心の書評など

Breaking the Spell: Religion as a Natural Phenomenon

作者: Daniel C. Dennett
出版社/メーカー: Viking Adult
発売日: 2006/02/02
メディア: ハードカバー
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次の読書はダニエル・デネットにしようと思う．これはドーキンスの最近著The God Delusionを深く読むための予習みたいな構えintentional stanceで行きたいという趣旨だ．さてデネットを読むのは楽しい．最初に読んだのは「ダーウィンの危険な思想」．これですっかり気に入りました．これがなければ今でも科学哲学に関しては全くの食わず嫌いだったかもしれない．その後「解明される意識」「Freedom Evolves」そしてその訳書「自由は進化する」も読んですっかりデネットファンとなってしまった．

デネットの楽しいのはその進化に対する理解に一点の曇りもあやふやさもないところだ．そして哲学者だけに叙述内容は明晰で，怪しい進化論者を完膚無きまでに論破するところは本当にすかっとする快感が得られる．

さて今日から取り組むのは「Breaking the Spell」．「呪文を解く」というのは宗教を信じているというのは一種の魔法にかかったような状況だと見なし，そしてそのような人たちをそのままにしておくのがよいのか，それとも呪文を解いてあげるのがいいのかと言うことを読者に問いかける趣旨である．

まず序言では本書がこれまでの著書と異なり，アメリカ人の読者を特に念頭に置いた書物であることが宣言される．確かにアメリカの置かれている宗教状況はきわめて特殊なのだろう．もともと欧州での迫害を逃れてきた清教徒たちが打ち立てた植民地が独立した国家であり，きわめて宗教色が強い国である上に，建国以来のアメリカの特徴は持続的に宗教色が強まっているところだという説もあるくらいだ．ブッシュ大統領の地盤の中西部は確かに巨大なキリスト教原理主義の帝国といってもよいのかもしれない．そして著者の問題意識は当然ながら9/11とは無縁ではないのだろう．本来各地の宗教を数年リサーチをしてから書くべきものだが，今の時点で出版することに決めたと書かれている．

さて第1章は「どの呪文を解くのか」と称して宗教の定義を扱っている．

いきなりホストのアリを操作する寄生虫の話が出て，進化生物学への造詣の深さを見せつつ，宗教が人の頭脳への寄生体だと考える著者の立場が予想されるしかけになっている．さらに主人にために死ぬような性質を持つイヌの話が続き，宗教がいわば家畜化されているという含みを伝える．

続いて作業仮説的定義として「その構成員が，その承認が探求されるべき超自然的なエージェント（単数），またはエージェンツ（複数）への信念を持つような社会システム」というのが提示されてその定義の解説を行っていく．

ところどころに面白い揶揄があり楽しめる（神は時を越えた存在だと主張する一神教信者が神に祈ることはどうなのかなど）

そして本書の本題；呪文を解くべきかという主題が提示される．中毒，依存症は他人に迷惑をかけない限りはそれを止められるべきではない．しかし具体的事例では判断は難しい．結局は「価値」の問題と言うことだという．最後にここでのボトムラインとして宗教の善し悪しを調べること自体を拒否する呪文は解くべきだと主張する．確かにこれを認めたら何も議論の余地はなくなってしまうから哲学者の立場としては当然だ．

そして調査の当然の手法として，自然科学的でなければならないとする．宗教を社会現象としてとらえ，物理学や生物学の範囲で説明しようというのだ．そして奇跡をすべての人に対して証明するならそれは自然科学によるしかないとする．逆説的だが宗教側も納得せざるを得ないだろう．本書では「神の実在」を取り扱うのでなく，「なぜ多くの人が宗教にひかれるのか」を取り扱うのだとしている．
なかなか快調な出足だ，十分楽しめそうである．

第１部　パンドラの箱を開ける．

第1章　どの呪文を破るのか？

1.何が起こっているのか

2. 宗教の定義の作業仮説

3. 破るべきか破らないべきか

4. 深淵を見透す

5. 自然現象としての宗教

第1章まとめ
宗教は強力な現象だ．いろいろなリスクや反感はあるだろうが，この現象は科学的に調べるべきだ．

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