読書開始 「Moral Minds」

Moral Minds: How Nature Designed Our Universal Sense of Right and Wrong

Moral Minds: How Nature Designed Our Universal Sense of Right and Wrong



今日からはドーキンス本で紹介されていたこの本を読んでみることにした.
進化心理的に道徳がどう説明できるかということについてはスティーブン・ピンカーのHow the Mind Works (邦題「心の仕組み」)で詳しく論じられているし,マット・リドレーもThe Origins of Virtue (邦題「徳の起源」)でうまくまとめている.いずれも道徳観が何故進化してきたのかという究極因の説明を試みているもので,どのような淘汰圧がかかったので道徳が進化してきたのかについて説得力のある本だった.
これに対してハウザーによる本書は,進化によって私たちの心にある道徳とはどういうものか,どのようなメカニズムによっているのかをデータとともに明らかにしていこうというものらしい.ちょうど言語能力についてピンカーが書いた素晴らしく魅力的な本 "Language Instinct" (邦題「言語を生み出す本能」)の道徳能力版というものに当たるのだろう.


プロローグでは本書の狙いについて,言語本能というアイデアから道徳を説明したいのだと明らかにしている.だから本書は道徳能力についての本だということになる.そして道徳能力とはちょうど言語能力と同じように,ヒューマンユニバーサルな道徳文法があり,それに環境・文化によるパラメーター調整が行われて得られるものだと言っている.


そしてプロローグで早速例題があげられている.

欲深い叔父が金持ちの甥の財産に目をつけている.
1)叔父は甥の家に行き,浴室に入り,そこにいる甥を溺死させる.
2)叔父は甥の家に行き,浴室に入り,そこで甥がおぼれかけているのを発見する.叔父は助けずにドアを閉めてそのまま甥がおぼれ死ぬのを待つ.

私たちは1も2も叔父は有罪だと考えるだろう.

では現在の安楽死を巡るアメリカ医学協会のポリシーはどうだろうか.
医者は積極的に延命装置をはずすことは禁じられているが,(一定の条件下で)患者が死ぬのにまかせることは許されている.


実際に患者にこれ以上の薬を処方せずに死ぬのにまかせるのは認められ,規定量以上の薬の処方することにより死を早めることは禁止されると言うことが問題になったことがあるらしい.ハウザーはこれは私たちの道徳の直感に合わないだろうと言っている.政策立案者は私たちの道徳能力の仕組みをよく知る必要があるのではないかとの問いかけだ.


Moral Minds


プロローグ 正義の声




関連書籍



How the Mind Works

How the Mind Works



まずはピンカーの心の仕組み.今でも進化心理学の入門書としてはもっとも魅力的な本だと思う.



The Language Instinct

The Language Instinct


同じくピンカーの”言語本能” これもとても魅力的な本だ.



The Origins of Virtue: Human Instincts and The Evolution of Cooperation

The Origins of Virtue: Human Instincts and The Evolution of Cooperation


マット・リドレーによる道徳の進化の本.手際よくまとまっている.



それぞれの邦訳


心の仕組み~人間関係にどう関わるか〈上〉 (NHKブックス)

心の仕組み~人間関係にどう関わるか〈上〉 (NHKブックス)

言語を生みだす本能(上) (NHKブックス)

言語を生みだす本能(上) (NHKブックス)

徳の起源―他人をおもいやる遺伝子

徳の起源―他人をおもいやる遺伝子