読書中 「Moral Minds」 第4章 その5

Moral Minds: How Nature Designed Our Universal Sense of Right and Wrong

Moral Minds: How Nature Designed Our Universal Sense of Right and Wrong



第8節はヒトが生得的に持つカテゴリー化する心理と,それが道徳にどう影響を与えるかを考察している.
最初に私たちは犬の行動により引き起こされたこと(たとえば人の死)とチンパンジーの行動によるもの,そして人間の行動によるものについて違った感覚を持つことを示す.おそらくそれは意図ある行動をとるエージェントとそうでないものを区別することから来ているのだろう.犬にヒトのような心があると信じている人は犬の行動についてもより責任を認めるのだろうか?


続いて子供は見えないものについてカテゴリー化することをいろいろと示す.フォルク生物学といわれる生物と非生物の区別や本質主義が説明される.また内集団と外集団の区別や「死」についての理解などにも触れる.


このようなカテゴリー化の悪い点は偏見と差別主義に結びつくところだとハウザーは述べている.

ほとんどの人は自分は人種差別主義者でも性差別主義者でもないと答える.しかし写真を次々に見せて,善人か悪人かを判断させていくと,内集団びいきが露わになる.私たちの心は混沌とした世界を整理して理解するためにカテゴリー化する傾向を強く持つのだ.そしていったんカテゴリーが成立すると,それは感情に結びつく.そしてそれは無意識に形成されるのだ.

ハウザーはこのようなバイアスは自覚することによって防げるだろうかと問いかけてこの節を終えている.おそらくとても難しいというのが本当のところなのだろう.



第9節は道徳と関連の深い「耐える能力」について.


ムーアの実験が紹介されている.

子供に次の選択肢を選ばせる.

  1. 自分のみ1つとる   自分が1つ,実験者が1つとる(コストのない分配)
  2. 自分のみ2つとる   自分が1つ,実験者が1つとる(コストのある分配)
  3. 今1つとる  後で2つとる
  4. 今1つとる  後で,自分が1つ,実験者が1つとる

結果は以下の通りだったそうだ.
小さい子ほど今を重視した.
コストの有無は分けようとする傾向に差を与えなかった.
3で待てる子はより4の将来の分配を選んだ.(待てる子はより互恵的に振る舞える)
他人の心がよりわかる子(心の理論のテスト)は4でより後の分配を選んだ.
またこの能力に相関する要因としては兄弟が何人いたかなどの対人環境の複雑さだった

子供が後からの報酬のために現在の報酬をどこまで我慢できるかについては個人差がある.そしてより待てる子はよりルールを守るのだそうだ.また待てる能力は互恵的関係とも関連する.お返しを待つには忍耐が必要なのだ.
ハウザーは忍耐は人生の深遠な真理の一つであり,何秒待てるかでその子の将来を確率的に予言できるとまでいっている.


ハウザーはでは何故自然淘汰でそのような能力が淘汰されなかったのかを問い,忍耐は常に得ではなかったのだろうといっている.


この問題は行動経済学でよく問題になる時間割引率のパズル問題だろう.(ちなみによく双曲線的割引率と表現されるが,指数関数よりもカーブがきついことは明らかだが,それが本当に双曲線的だというデータは見たことがない.いつもちょっと引っかかっているところだ)進化心理学的には,人類の進化的な過去では期待寿命が短かったり,将来のゲインが非常に不確かだったりすることにより現時点の報酬を重視する方が合理的なことがそれなりにあったのだろうと説明することになるだろう.



第4章 道徳器官


(8)それは生きている.


(9)満足させる忍耐