読書中 「The Stuff of Thought」 第2章 その1

The Stuff of Thought: Language as a Window into Human Nature

The Stuff of Thought: Language as a Window into Human Nature


今日からは第2章だ.Down the rabbit hole と題されていて何のことやらと思うが,これは不思議の国のアリスが不思議の国に落ちていくイメージなのだ.言語の不思議の国に入ってみようという趣旨のようだ.ピンカーはこの章はヒトの考えの微小世界への旅だと言っている.そしてその世界の入り口は英語の動詞システムになるらしい.


まずヒトの考えを探るには何かとっかかりが必要だと言い,前章のおさらいになる.

  1. ヒトの心は単一シナリオを複数の方法で構成することができる
  2. その構成物はいくつかの基本アイデア(事件,原因,変化,意図など)によって組み立てられている.
  3. このアイデアたちは比喩的に他の領域に延長できる.例えば事件をカウントしたり時間を空間のように扱ったりする.
  4. 個別のアイデアはそれぞれ何かを理解するための奇妙な発明だが,それを広く使用すると誤謬や混乱が生じる.


これが前章の言いたいことだったということだが,ピンカーは続けて,これが何百もある平凡な真実の一部のリストではなく,この4つは発見するのは大変だがぴったりはまるパズルのピースだということがわかるだろうと言っている.本章ではこころの仕組みを見るために子供の動詞の学び方を見ていくらしい.ピンカーのもともとの専門分野(発達言語学)に近い話から始まるようだ.


第1節は Powers of Ten と題されていて,世界を銀河のスケールからクオークのスケールまで見ていくと宣言している.

まず銀河の視点として以下が提示される.

ヒトの心は予期しないような問題解決が可能だ.このようなコンピューターにはまだ苦手な能力のもっとも最初にくるのは言語能力だ.そしてそのもっとも注目すべき能力はそれを習得できると言うことだ.新生児は言葉を知らずに生まれるが,3歳にもなるとそれを操ることができるようになる.
流れるようにしゃべるためには,子供は単に記憶しているだけでなく,周りの言語を分析しているはずだ.子供が文法を間違っている時には,しかしその背後にすぐれた分析があるのがわかることがある.何らかの法則を見つけてそれの適用を誤っているような場合にそれがわかる.
そしてそもそも限られたサンプルから言語習得していることは最大の偉業だ.
これは科学における法則の発見と同じ重要性がある.いわゆる「帰納」の問題だ.限られたサンプルからある法則を発見したからと言って論理的にそれが常に正しいとは限らない.しかし宇宙は法則によってできているという前提から科学は進むのだ.
そして子供が言語習得するときの方法も帰納問題なのだ.彼等は限られたサンプルから規則を見つけなければならない.

これはピンカーの Language Instinct や Words and Rules で何度も強調されている言語の驚くべき特徴のおさらいだ.さてピンカーが最初に挙げる例は次の英語の文章だ.


まったく同じような文章だが,この構文が理解できていないと2番目の疑問文が非文法的であることがわからないはずだというのだ.非ネイティブの私にはなかなか2番目が非文法的かどうかとっさにわからないが,確かに聞かない表現だ.でもどうして駄目なのかはわからない.おそらくネイティブの人にも理由は説明しにくいのだろう.

 He ate the green eggs with ham. → What did he eat the green eggs with?
 He ate the green eggs and ham. → *What did he eat the green eggs and?

(*は非文を表す)


日本語でよく似た例はあるだろうか.
後置詞句の性質に絡むもののようだから次のようなことではどうだろうか?

 ネコが寝ている.→ ネコが3匹寝ている
 その噂を学生から聞いた.→ *その噂を学生から3人聞いた.


そしてよく似た次の2つの文章がまったく異なる意味を持つというのが次の例だ.

 Harriet appeared Sam to be strong.
 Harriet appealed Sam to be strong.



日本語では以下のような例はどうだろうか.

 翔子と話すと楽しい.
 翔子は話すと楽しい.


この2つでは「楽しい」の意味上の主語が異なっている.(英語の例ほど違いが劇的ではないが)


ピンカーがここで強調しているのは言語習得には唯一の正しい一般化が必要であり,そしてそれには背景にある文法の構造の理解が必要だということだ.そしてこれはチョムスキーが最初に洞察したことだと解説し,子供は最初から普遍文法を持っていなればならないことを説明している.
ではこの普遍文法はどのような形なのだろう.ピンカーは理解のためには何か1つの特徴に絞って考えるのがよいと示唆し,動詞の文法を取り上げる.




第2章 ウサギの穴に



(1)パワーズオブテン