「ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ」


ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ―ハイテク海洋動物学への招待 (光文社新書)

ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ―ハイテク海洋動物学への招待 (光文社新書)



光文社新書の一冊.海中生物にデータロガーをつけてその生態を解明しようとする学問の第一線を紹介してくれる.この学問領域をバイオロギングと名付けたそうだ.このような現場の研究者の書いたものを読むと,臨場感がびしびしと伝わってくる.そのあたりが最大の読みどころだ.


登場する主な生物はウミガメとペンギンとアザラシだ.
最初に体温の変化パターンのデータが題材になる.ウミガメの体温は,内部発生熱により海温より少し高めの体温が維持されており,わりと一定していること,逆にペンギンは深く潜るときには酸素消費量のトレードオフから筋肉以外の部分の体温を下げていることなどの発見が報告される.続いてペンギンとアザラシの潜行時のヒレの使い方パターンの話題.ペンギンは比重を1未満に保って,潜るときにヒレを使い泳いで潜行していくのに対し,浮かび上がるときにはそのまま浮かぶ.アザラシは逆になっていることが報告される.
そのあとにはいろいろな話題が次々に登場する.アザラシやペンギンの採餌パターンと最適採餌理論からの考察,ペンギンの潜水パターンと捕食リスク回避の関連など.またアザラシにカメラを取り付けて撮影を行う話題もある.


しかし本書の魅力はやはり研究の最前線の迫力だろう.外国人研究者との交流と文化差にとまどう話,ウミガメのデータ獲得の苦労,ペンギンやアザラシの素顔なども良いが,圧巻は2度に渡る南極越冬の体験談だ.厳寒の南極でアザラシやペンギンにデータロガーを取り付け回収するその苦労話,一日だけ朝寝坊してデータを取り逃したマーフィーの法則の実地体験,ヒョウアザラシに襲われて間一髪だったことなどが楽しそうに語られている.
最終章には,研究はなかなか最初のデザイン通りには行かないが,しかしそこから紆余曲折して成果が上がっている面白さが描かれていてここも味がある.楽しいハイテク海洋動物学への招待状だ.