「Sex Allocation」 第5章 血縁者間の相互作用3:拡張局所配偶競争(LMC)理論 その3

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)


逐次産卵にはさらに拡張がある.これは先メス卵から産まれたオスと後メス卵から産まれたオスの間に交尾確率の非対称がある場合にかかるものだ.


5.3.3 逐次的産卵:非対称LMC


broodごとにオスの交尾成功率が異なれば性比予測は複雑になる.このような場合をシューカーは「非対称LMC」と名づけた.もともとの非対称LMCはオスの繁殖成功に違いがあるものを指していたが,ウエストはメスの繁殖成功にも差がある場合もここで含めて論じている.

このケースを最初に分析したのは安部になる.(Abe et al. 2003)先メスの息子が先に孵化して交尾に関してアドバンテージがあるとする(一部の寄生バチでは後メスの卵から産まれるオスを孵化前に殺してしまう)と後メスは(そのような非対称がないときに比べて)性比をよりメスに傾けるだろう.これは当然のように思われる.これに続けてウエストはこの非対称が大きいと後メスは(クラッチサイズにかかる調節もなくなり)先メスと同じ性比にするだろうと書いているが,これは理解しがたい.非対称が大きくて後メスの息子が全く交尾できないなら性比は0(すべてメス)になるのではないだろうか.


エストは,この安倍のモデルはMelittobia属(先メスの息子と後メスの息子間でコンバットが生じ95%で前者が勝つことが観測されている)の寄生バチの性比(後メスの性比は約0.05で先メスと同程度)をうまく説明できたが,代替説明(性比歪曲寄生体,Nの分散不足による性比調整淘汰圧不足,同パッチに産卵するメス同士の血縁度が高い可能性(一部メスは非分散))は排除できていないとしている.このあたりも詳細こそが問題であることがわかる部分だ.


シューカーはより弱い非対称を考察した.(shuker et al. 2005)大きな単一パッチに連続して産卵が生じ,その中で先に孵化したメスは交尾してどんどん分散していくがオスはパッチに残って配偶競争に加わり続けるという状況だ.この場合,後になるに従って繁殖競争は激しくなるが,オス同士の平均血縁度は下がるのでLMC効果は弱くなることに注意が必要になる.
モデル化対象状況は多数考えられるが,シューカーは単一パッチの中に複数ホストがあって,同一ホスト産卵か別ホスト産卵かで競争状況が異なるという複雑な前提*1でモデルを組み立てている.
エストはこのモデルについても詳細に紹介している.オスがいつ孵化するかによって配偶競争強度とLMC強度が異なり,なかなか複雑な結果が予想されていて,大変興味深い.これは実証もされていてウエストのお気に入りのリサーチなのだろう.読んでいても頭がクラクラしそうだが,見事に組み立てられた構築物を見るようで,行動生態学の到達点の一つだという印象だ.


5.3.4 同時産卵:理論


同時産卵でクラッチサイズが異なると何が生じるのか.ウエストは質的には逐次モデルと同じだとコメントしている.より多く卵を産むメスの方がよりメスに傾けることになる.これはクラッチサイズが大きい方がより多くの子孫がパッチの中に残り,より強いLMC効果を受けるからだ.ウエストはそう書いてはいないが,逐次的産卵の場合と同じく,大きなクラッチサイズのメスに対して小さなクラッチサイズのメスはそのメスに傾いた性比に「寄生」できる状況になると解釈できるだろう.
また理論は,すべてのメスが同じ数の卵を産むよりもパッチ全体ではよりメスに傾くことを予想する,さらにフランクや山口の理論的な仕事は「クラッチサイズにかかわらず,すべてのメスにとって,ある同数のオスを産む戦略がESSになる」という美しい結果を示している.(Frank 1985ほか,Yamaguchi 1985)これはコンスタントオス仮説と呼ばれる.この結果は数理的な問題に時に現れる精妙なものだが,この結果になるには前提がある.メスはすべてのパッチ内のメスのクラッチサイズについてアセスできなければならない(完全アセスモデル).

さらにこれを緩めた理論的な仕事もある.(Stubblefield and Seger 1990)その結果少なくとも自分のクラッチサイズがわかれば,大きなクラッチサイズのメスほど性比をメスに傾ける結果になる.これは平均クラッチサイズもわかっているという前提があるのだろうが,わかりやすい.
しかし自分のクラッチサイズだけわかっている場合(自分のみ知識モデル)には「コンスタントオスにならず,オス数はクラッチサイズに対して最初増加,途中で頭打ちになって最後は下がる」「パッチ全体でも同様の傾向になる」「パッチ間で性比はばらつき,全体産卵数と負に相関する」という結果が予想されているそうだ.
このあたりも詳細がオタク的で面白い.特に最初の予想はどうしてそうなるのか直感的にはわかりにくく大変興味が持たれるところだ.しかしウエストはこれについては解説してくれていない.



 

*1:「N=2で逐次的に産卵がなされる」「パッチ内で同一ホストに産卵がある場合には同時に孵化するが,別のホストに産卵が生じた場合には後メスの子は遅れて孵化する」「別ホストから産まれたメスを巡って配偶競争があるオス同士の血縁度の方が平均して低い」