「Sex Allocation」 第11章 一般的な問題 その2

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)

Sex Allocation (Monographs in Population Biology)


11.3 性比リサーチの有用性


特性分野の性比リサーチの成功には理論的な理由と実証的な理由の両方がある.性比は適応度に直接的あるいは潜在的に大きな影響を与え,さらに関連するトレードオフを容易に数量化できる.この結果,ESSモデルを用いることにより明確な理論的予測を立てることができるのだ.

  • 多くのケースで,理論は,ESSが計測も操作も容易なごく少数のパラメータに依存することを予測する.
  • さらに性投資比自体比較的計測しやすい.特にオスとメスの作成コストがほぼ同じ程度の場合は性比を見ればいいので容易だ.

この結果性比リサーチは,進化生物学における一般的な問題に取り組む際のツールとしてよく用いられることになる.ここでは5つの分野を特に紹介する.

  1. 社会進化理論
  2. ESSアプローチの利用
  3. 適応における制約の重要性
  4. 理論と実証の相互影響
  5. 保全やバイオコントロールなどの応用分野での利用


11.3.1 社会進化と淘汰のレベル


進化的な視点からみると,ある特徴が他個体に影響を与えるなら,それは社会的な特徴ということになる.性比理論は私達の社会進化の理解,包括適応度理論の進展と検証,淘汰のレベルの論争においてに関してその中心的なものだということができる.


11.3.1.1 包括適応度と血縁淘汰


エストはここで包括適応度理論の重要性を改めて解説している.簡潔で素晴らしい.

  • ダーウィン自然淘汰の理論はフィッシャーにより定式化されており,自然淘汰は自らの繁殖成功(あるいは直接適応度)を最大化する個体を導き出すことを示唆している.
  • しかし遺伝子の次世代への伝達は,直接適応度だけでなくその遺伝子を持つ他個体への影響(間接適応度)にも依存する.ハミルトンの洞察はどのようにそれがなされるかを示した.彼は自然淘汰は包括適応度を最大化させる個体を導き出すことを示したのだ.そして包括適応度は直接適応度と間接適応度を足しあわせたものだ.
  • 遺伝子を共有する(唯一ではないが)最もわかりやすい例は彼等が血縁個体であることだ.だからこの過程はよく「血縁淘汰」と称される.
  • ハミルトンの包括適応度理論の重要性と一般性はいくら強調してもし過ぎることはない.それは私たちの自然淘汰の理解においてダーウィン以来の最大の前進なのだ.


そして性投資はハミルトンの包括適応度理論についての最高にエレガントなサポートの一部を提供している.

  • 包括適応度理論の予測は相互作用する個体にとってのコストと利益に依存する.しかしこれらの生態的なコストや利益はしばしば多くの要因に依存し,(血縁度より)計測が難しく,通常のケースでの包括適応度の実証を困難にしている.
  • 性投資については,しばしば計測が容易な少数のパラメータで定量的な予測が可能になる.例えばLMCは同じパッチに産卵するメス数とそれぞれのメスの産卵数によって予測が可能になるのだ.


これは本書で何度も何度も強調されていることだ.本書の刊行は包括適応度理論を否定する筋悪なNowakたちの論文の発表前だが,彼等はあの論文では性比について全く沈黙している.これは彼等の勉強不足をよく示しているところのひとつだろう.