Enlightenment Now その17

第8章 富 その2

ピンカーは全世界ベースで見た19世紀以降の急激な経済成長,それを国別に見た場合の産業革命第二次世界大戦後の2段階ブーストを解説した.しかし平均は超富裕層がいれば押し上げることができる.では貧困層はどうなっているのだろうか.

  • 統計学者オラ・ロスリングは世界人口の1日あたり収入の分布をヒストグラムとして表した.(ここでその1800年,1975年,2015年のカーブが示されている.1800年は0.75ドルを頂点としたやや左よりの正規分布に似た曲線.1975年は1ドルのところと15ドルのところの両方に頂点(1ドルのところの方が倍ほど高い)のあるラクダの背のような二峰型の曲線,2015年には8ドルを頂点とする積分布に近い曲線になっている.データソースはロスリングによるWebサイトGapminder http://www.gapminder.org/tools/mountain
  • 産業革命の夜明けである1800年には全世界の平均収入は今日アフリカの最貧国のそれと同じぐらいであり,全人口の95%が今日の極貧水準(1日あたり所得1.90ドル以下)以下で暮らしていた.1975年までの欧州諸国とそこから派生した国々は大脱走に成功し,右側に小さなこぶを形成した.21世紀フタコブラクダヒトコブラクダになりその山は大きく右に動いたのだ.


ここで極貧水準以下で暮らしている人口の割合の推移を示したグラフが提示される.(データソースはOur World in Data 2017,元データはBourguignonとMorrison 2002)1820年代には90%近くあるがだんだん速度を速めつつ下がっており,2015年には10%程度になっている.

  • 極貧水準は1996年に「1人あたり1日あたり所得1ドル以下」として定められたものだ.(これは価格バスケット調整をして現在1.90ドルになっている)そして200年でそこに暮らす人口の比率は90%から10%に下がったのだ.
  • 世界の進歩は2つの方法で評価できる.
  • 1つはいま見たように比率と1人あたりの数字にしてみることだ.それはロールズの思考実験に沿っており,モラル的に見た場合に重要になる.無知のベールを通すのなら,貧困層の比率,そして十分な生活水準に達している比率に関心を持たざるを得ない.
  • もう1つの方法は絶対数だ.うまく生活できている人の絶対数.極貧にあえいでいる人の絶対数も考慮に値する問題だ.


ここで絶対数の推移グラフも示される,(データソースはOur World in Data 2017,元データはBourguignonとMorrison 2002)1820年から1970年までは極貧水準以上の人も以下の人も総数は伸びている.しかし1970年以降,極貧水準以上の人は大きく伸び,極貧水準以下の人は絶対数で減っている.

  • このグラフは1970年以降世界人口は37億人から73億人まで増加しているのに,極貧水準以下の人口が減っていることを示している.私たちはごくわずかな超富裕層がいるだけの世界にいるわけではない.今や66億人の人が貧困から抜け出しているのだ.
  • このニュースは楽観主義者にとってすら驚きだった.2000年に国連は8つのミレニアムゴールを設定した.悲観主義者はこの目標をあまりに大きな野望だとあざけった「たった25年で貧困層の比率を半分にし,10億人を貧困から抜け出させるだって? おやおや」
  • しかし世界はそれを5年前倒しで達成した.開発援助の専門家もこれには驚いた.
  • 将来を展望することをやめたりしないようにしよう.確かにこれまでの傾向を単純に延長して将来予測をするのは危険だ.しかしこれまで示したカーブを延長すれば,2030年には極貧人口を0にできることになる.是非その日まで生き延びてこの眼で見たいものだ.
  • もちろんまだ何億人も貧困にあえいでいるし,0にするのは単純に傾向を延長するのとは別の努力が必要になる.インド,インドネシアなど多くの国で数字はこれに向かっているが,コンゴ,ハイチ,スーダンなどでは逆に貧困層は増えている.そして最後に残った貧困層をなくすのは大変難しいだろう.また極貧水準自体も見直す必要があるだろう.しかし進歩への注意を促すポイントは自己賞賛にあるのではない.それはここまで何がうまくいったのかを調べ,今後さらなる問題解決のために何ができるかを知るためだ.


ピンカーが示しているグラフの貧困の絶対数の最近の急低下は確かに印象深い.特に2000年以降貧困層はぐっと下がり始めリーマンショックなど何の影響もなかったかのように2010年以降さらに減少ペースを上げている.日本にいると実感しにくいが,この面でも世界は確かにここ20年でぐっと良くなっているのだ.