Virtue Signaling その5


Virtue Signaling: Essays on Darwinian Politics & Free Speech (English Edition)

Virtue Signaling: Essays on Darwinian Politics & Free Speech (English Edition)

Amazon CAPTCHA
amzn.to
 

第4エッセイ 道徳的徳の性淘汰 その1

 
第4エッセイは2007年に出されたミラーの論文そのものだ.まずはこの論文についての背景説明.
 

  • 「Virtue Signaling」は最初はとても簡単な話に思える.しかし実際には「人々は消費の好みや政治的態度を見せびらかすことによって実際より善良であるようにみせかける」ということよりも遙かに深い.その深さを理解するには道徳的徳自体の進化的起源に戻って考える必要がある.その起源は自明ではない.ルーツを掘り返すのは一仕事なのだ.
  • このエッセイは徳の起源についての私の最深探索になり,本書のハートそのものだ.本書の中で最長で最もシステマティックでアカデミックなものだ.道徳的徳の性淘汰が理解できれば,ファーストデートやグリーン消費から政治までの「Virtue Signaling」の心理的な基礎が理解できる.

 

  • 私はこの論文をテニュア取得(2008年に取れた)に向かっている最中に書いた.テニュア取得には,私が大きな絵を思索する考察家であると受け取られるために一流誌にメジャーな理論的論文が掲載される必要があった.私はほとんどの心理学雑誌よりもQuartery Review of Biology誌の方が私の進化的な議論にオープンであることを知っていた.だからそこに投稿し,受理されたときには身震いした.Quarterly Review of Biology誌はかつてトリヴァースの互恵的利他論文を掲載したことがあるのだ.
  • 私はヒトの親切と利他性の起源に興味を持っていた.そしてこの論文の10年前にもそのテーマで論文(それは「The Mating Mind」の1章になっている)を書いている.しかしそれまでシステマティックで学術的に真剣な論文は書いていなかった.私はそれまで学んだ進化心理学,ゲーム理論,信号理論,利他行動,道徳哲学,ロマンスについてのすべてをこの論文に盛り込んだ.

 
というわけで本エッセイは本書収録の中で最長で,フォーマルな議論が繰り広げられるものになっている.ゆっくり見ていこう.
 

Sexual Selection for Moral Virtues. Quarterly Review of Biology, 82(2), 97-125 (2007)

 

  • ヒトにおいて美しい肢体は短期的な欲望をかき立て,魅力的で道徳的な行動は長期的な愛に火を付ける.性的装飾と道徳的徳は機能的類似物なのだろうか? 本論文はヒトのモラルが性淘汰により性的ディスプレイとして進化してきた可能性を探求するものだ.

 

  • 最もロマンティックに魅力的な特徴,つまり優しさ,勇気,正直,信頼はしばしばモラル的側面を持つ.
  • 最近の実証的リサーチは,多くのモラル的特徴が性的に魅力的であり,メンタルな適応度指標として機能しているらしいことを示唆している.それらはメンタルヘルス,脳の効率性,協力的な性的および子育てについての協力的関係をもたらすことについての正直なインディケーターとして機能している.つまり性的に魅力的な道徳的徳は(性淘汰理論,信号理論に従い)適応度についての騙しの難しい広告をするために進化したと考えられる.
  • この仮説は道徳的徳の少なくとも一部は性淘汰により形成されたというものになる.モラルに関連する共感や公正さに関する感覚は類人猿にも見つかっており,ヒトのモラルがすべて性淘汰で1から作られたわけではない.そうではなく,私は性淘汰は社会性類人猿として我々の祖先が持っていた標準的な徳をユニークで精妙なヒトの徳に強化したと考えているのだ.そしてこれまで主張されていた血縁淘汰,互恵性利他などの仮説を置き換えようとするものでもなく,それを補足するものだと考えている.

 

  • このモラル性淘汰説には長所と短所がある.これまでの考え方と異なるのは,本仮説においては性的魅力,同類配偶,遺伝分散,表現型分散,条件依存的コスト,顕示的ディスプレイ,ディスプレイが若い年代でピークを形成することをうまく説明できることだ.
  • そして血縁淘汰などの別のメカニズムで生じるモラルをより強化し,社会的選択として作用することにより極端でコスト高なモラル的行動を引き起こすことを予測する.血縁淘汰などのメカニズムだけでは個体に包括適応度的な生存メリットが必要になるが,配偶選択メカニズムが加わると遙かにコスト高な行動傾向が進化できるのだ.つまり配偶選択型性淘汰はその他の進化メカニズムにポジティブフィードバックメカニズムを付け加えてスーパーチャージするように働くのだ.

 

  • 一部の道徳的徳はシグナルとして魅力的(例えば競争力のシグナルとしての英雄的行為)なのだろう.また一部はそれ自体が魅力的な特徴(例えばフェアであることは長期的性的関係において望ましい)だろう.とはいえこの区別はトリッキーだ.というのはシグナルには常にフェイクの問題がつきまとうからだ.つきあい始めは愛想が良くていい感じの男性に思えたが,2〜3年経つと実は気むずかしくて厄介な男だとわかったりする.この場合の愛想の良さは(将来的な特徴のシグナルとして)信頼できないシグナルだということになる.
  • この問題を明確にするにはコストのあるシグナルの視点が有用だ.すべての道徳的徳のディスプレイは潜在的には不安的で信頼できないものである可能性がある.信頼性を見るにはコストの分析が重要なのだ.

 
(ここで進化的理由付けが意識的動機になっている必要がないことについて注意書きがある)
 

  • 本論文は性的魅力のあるパーソナリティと道徳的徳の間にかなりのオーバーラップがあると主張するが,すべての道徳的徳が性的魅力をもつとか,すべての性的魅力のある特徴が道徳的だとか主張するわけではない.人によっては異性のマキアベリアン的狡猾さや攻撃的な獰猛性に惹かれることもあるだろう.ヒトのセクシャリティは時に変態的になるし,ナイスガイが常にもてるわけでもない.悪徳が決して魅力的にならないわけではないのだ.

 

道徳的徳と徳倫理

 

  • 本論文は私の著書「The Mating Mind」で議論した内容を深め,2000年以降の実証的理論的研究,個人差研究,行動遺伝学,道徳哲学からの洞察を取り入れたものになっている.
  • 道徳哲学的視点は本論文で特に説明的な力を与えてくれたわけではない.また私は哲学者たちが歴史的に「徳」として考えてきたものが自然淘汰産物と一致するとも思っていない.しかしここで道徳哲学を持ち出すにはいくつかの理由がある.
  • まず徳倫理(virtue ethics)は伝統的な帰結主義(そしてこれは利他主義の血縁淘汰や互恵性の説明の基礎に使われている)に対して有用なカウンターバランスをもたらしてくれる.また徳倫理学は分析の焦点を個別の行為から安定的パーソナリティに転換させてくれる.さらに多くの徳倫理学者は他者の道徳的行動に対する認知的感情的反応を記載してくれていてこれはモラルシグナルに対する受信者心理分析の出発点として役に立つ.最後に徳倫理学は進化理論が今日の社会科学や人文科学へ影響を与える新しいルートになり得ると思うからだ.

ここまでが本論文の序論にあたるものになる.このミラーの性淘汰仮説はあくまで血縁淘汰や互恵性による利他主義の説明の補足,興味深いスーパーチャージャーだとしていることがわかる.またごく初期からパーソナリティとの関連を深く捉えていることもわかる.当倫理学へのコメントもなかなか興味深いものだ.