Virtue Signaling: Essays on Darwinian Politics & Free Speech (English Edition)
- 作者:Geoffrey Miller
- 出版社/メーカー: Cambrian Moon
- 発売日: 2019/09/17
- メディア: Kindle版
第4エッセイ 道徳的徳の性淘汰 その8
ミラーは道徳的な徳は,良い遺伝子,良い親,良いパートナーのハンディキャップシグナルとして性淘汰で作られた産物ではないかという仮説を提示した.この検証の方法論に入る前にまずいくつか整理を行う.通文化性,利他性に繁殖利益を与えることによりより協力的な平衡に移行させる可能性,そして特殊な正のフィードバックがかかる可能性だ,
道徳規範や道徳的徳への配偶選好を通文化的にみるとどうなのか
- このようなことを通文化的に調べると,1つの疑問が持ち上がる.それはなぜ一部のモラル選好には大きな文化差が見られるのかという疑問だ.ここでも徳倫理学的アプローチは異なるレベルの分析を明確化するのに役立つ.
- 私は次のように考えている:どの文化でも人々は知性,メンタルヘルス,感情的安定性を道徳的徳として評価する.しかし文化・社会・経済・生態的コンテキストによってそれをデモンストレートする方法が大きく異なるのだ.
- これまでになされた大規模なヒトの配偶選好リサーチには1989年のバスによるもの,2004年のシュミットによるものがある.男女に共通する強い選好形質は,優しさ,知性,刺激的パーソナリティ,順応性,創造性,貞操,美しさだった.これらは多くの文化で擬道徳的と評価される.
- ほとんどの文化で,淫乱,不貞,略奪愛は調和性の低さ,誠実性の低さを示すものとされる.
- 恋人募集広告のリサーチでは,人々は通文化的に道徳的傾向(特に親切さ,正直さ,貞操,信頼性)を広告し,相手に求めていることがわかっている.
性淘汰と平衡淘汰
- 非常に興味深いのは性淘汰とグループレベルの平衡淘汰に相互作用が生じる可能性だ.
- 多くの進化ゲームには複数の均衡解がある.均衡解にはそのグループ内の皆にとっていいもの(パレート最適なもの)とそうでないものがある.自然淘汰だけで非パレート最適平衡からパレート最適平衡に移行することは通常困難だ.
- しかし性淘汰は利己的で反社会的な平衡から逸脱する個体に繁殖利益を与えることにより非パレート最適平衡から抜け出す道を作るかもしれない.
- これは利他行為を説明する間接互恵性理論の評判に似た機能だといえる.しかしながら標準的間接互恵性モデルは二次的なフリーライダー問題を惹起させる.この利他罰問題を解決しようとする多くの説明はその個体の利益を明確化することなく文化進化や社会規範ダイナミクスを使う.
- これに対して(性淘汰)配偶選択モデルは利他的行為を行う個体にインセンティブを与える.だから道徳的個体の行動によってヒトの社会にしばしば現れる集合行為問題を解決することが可能になる.(道徳的個体の利益は繁殖利益だけでなく,友人や同盟などによるものも可能だろう)
- このような性淘汰モデルとグループ淘汰モデルを相互作用させると,グループレベルで非常に素速くよりパレート最適な平衡が選ばれることにつながる.
選り好みの強さ(choosiness)と道徳的徳
- ダーウィン以降の伝統的性淘汰理論では配偶選好性と選好される形質は明確に区分されてきた.しかしながらもしヒトの配偶選好が性的信頼性,貞操,選り好みの強さという(相手の)選好性自体にかかるならそれは新しい形のポジティブフィードバックを産むだろう.
- 友人や遊び仲間の選択がルーズなことが非道徳的に受け取られるように,配偶相手のだらしない選び方もそう受け取られる可能性がある.
- 我々は高度に社会的な動物であり,他人の性的振る舞いを観察し,記憶し,噂話をする.これにより高度な配偶選択能力がそれ自体コストのあるモラルシグナルとして選好される性淘汰産物になることが可能だ.
- このダイナミクスの理論的可能性は私の知る限りまだ探索されていないようだ.
2番目の指摘はハンディキャップシグナルによる繁殖利益が進化ゲームの動態を変える可能性の指摘で興味深いところだ.3番目の選好性自体がハンディキャップシグナルになるという可能性も理論的には興味深いものだ.ただこれらの問題は私の知る限りあまり広く議論されていないようだ.