Virtue Signaling その11


Virtue Signaling: Essays on Darwinian Politics & Free Speech (English Edition)

Virtue Signaling: Essays on Darwinian Politics & Free Speech (English Edition)

  • 作者:Geoffrey Miller
  • 出版社/メーカー: Cambrian Moon
  • 発売日: 2019/09/17
  • メディア: Kindle版
 

第4エッセイ 道徳的徳の性淘汰 その7

 
道徳の個人差についてミラーはここまでにビッグ5,メンタルヘルス,知性を取り上げた.

本当にこれらの傾向は道徳的徳と判断されるのか

 

  • このようなパーソナリティやメンタルヘルスや知性の傾向は,一体どういう意味で「擬道徳的」だというのだろうか.そう考えるべき理由が4つある.最初の3つは社会心理学の知見であり,最後の1つはポピュラーカルチャーから導かれるものだ.
  1. ほとんどの人は「創造性,美しさ,地位,富はそれらを持つものにメリットを与え,道徳的徳の原因でも結果でもある」という「世界観」を持っている.人々はこうした傾向をモラルに関連づけ,モラルと結合価を持つものとして扱うのだ.
  2. 潜在的連合テストを用いたリサーチによれば,人々は他人の評価について善悪の次元で行い,それは道徳的善,感じの良さ,楽しさ,肉体的美しさとごちゃまぜになっている.
  3. このような傾向には強い「ハロー効果」がある.例えば美しい,あるいは地位が高い,あるいは裕福な被告は無罪と判断されやすいのだ.逆に道徳的に善だと思われていると,その人は美しく健康だと評価されやすい.いずれも人々は道徳的善をパーソナリティ,メンタルヘルス,知性,肉体的美しさと混同しているのだ.
  4. 人々はしばしばこのような擬道徳的傾向を極端に誇張して神話的人物に当てはめる.例えば,神,政治的リーダー,映画のキャラクター,スーパーヒーローなどがそうだ.

 

  • ソクラテスのころから哲学者たちは実証的には様々な相関する傾向を区別しようとしてきた.ほとんどの哲学者は要因分析ではなく,必要条件と十分条件によってものごとを定義しようとする.だから道徳哲学者は上記のように道徳的善と社会的名声と経済的価値と性的魅力をごちゃまぜにすることを認めることを嫌がるだろう.
  • しかし哲学者たちがヒトの道徳の進化を押し進めてきたわけではない.ヒトの道徳の記述的説明を行いたいのなら普通の人々の感覚に耳を傾けるべきだ.それは実証的な問題なのだ.

 
普通の人が道徳と美しさと地位と富をごちゃ混ぜにしているというのはなかなか衝撃的な指摘だ.誰もがこれは次元の異なるものだと意識的にはわかっていても,無意識的にはそういう傾向を持っているということなのだろうか.
邪神やダークヒーローよりもモラル的な神やヒーローが多いのは確かだ.そうでなければ布教や物語が受け入れられにくいというのは確かにあるのかもしれない.
 

道徳的徳は本当に性的に魅力的なのか

 

  • リサーチは多くの道徳的徳(親切,感じの良さ,正直,英雄性など)が性的に魅力的で,関係の安定性に効いていることを見いだしている.多くのこのような徳への選好は長期的なパートナーを探しているときに強くなる.但しリスクのある英雄性への選好は女性が短期的な相手を探しているときに強くなる.
  • これらのリサーチの問題は,このような選好性が,良い遺伝子のためか,良い子育て投資のためか,良いパートナー探しのためかを区別できていないことだ.
  • 配偶選択のリサーチの基本は,まずシグナリング淘汰圧を与える選好性を示し,次になぜそのような選好性があるのかを調べることだ.この後者のステップはより繊細なリサーチデザインが必要になる.

 
ここからミラーは仮説の検証に向けた議論をすすめていくことになる.