From Darwin to Derrida その47

 
私たちは自分自身の中で意思決定についてコンフリクトを感じることがある.ヘイグはウィリアム・ジェイムズを引用してそのような現象があることを示し,そこから本章のテーマに進む.このようなコンフリクトは自然淘汰的にはどのように説明されるべきなのだろうか.
 

第6章 個体内コンフリクト その2

 

  • この問題については3つの仮説をたてることができる.それは(1)適応制約仮説(本来内部コンフリクトは無い方がいいが,なんらかの制約により非適応的になっている),(2)適応仮説(内部コンフクトは適応的であり,非適応的に見えるのは幻想だ.淘汰は利用可能な真実にたどりつく効率的な方法として複数当事者対抗型のシステムを採用した),(3)内部コンフクトリアル仮説(内部コンフリクトは現実に存在し,それは内部の複数のエージェントのゴールの違いに基づくものだ),になる.私はこのすべての仮説が内部コンフリクトの説明に有用だと考えている.

 
よくある進化心理的な説明は,このコンフリクトはモジュール間(あるいはモジュールと一般知性)のコンフリクトだとするもので,その場合になぜ脳がモジュールの集合体となっているのかについては,「一般問題解決機能を作るためには多くのステップを経る必要があり適応度がすぐには上がりにくい.自然淘汰はすぐに適応度が上がるような小さな特定問題を解決する部品を1つずつ作っていくように働きがちだ」からだということが含意されている.これは上記の仮説としては(1)の適応制約的な考え方に近いだろう.ヘイグはいずれの仮説もコンフクトの説明に有用だと主張し,まず適応制約説から解説を始める.
 
<適応制約仮説>

  • 最初に個体内コンフリクトの非適応解釈を見てみよう.自然淘汰による正確な最適化には制約がある.それは過去環境に向けて調整が生じる後ろ向き型の過程であること, 利用可能な変異が限られていること,非常に弱い淘汰圧に鈍感なこと(浮動の影響の方が大きい)などによる.

 
ヘイグはまず制約について一般論をおいている.ではこの問題についてはどう考えるのかが次に議論される.
 

  • 私たちのゲノム進化は古いテキストにマイナーリビジョンを加える形で進行する.それはちょうどコンピュータのOSが古いコードに新しい機能を実装しながら改良されるようなもので,プログラマーも自然淘汰も機能不全のすべての可能性を排除できるわけではない.
  • この視点から見ると個体内コンフリクトは「システムコンフリクト」に似たものということになる.OS内の複数の機能プログラムが時に互いに反する要求をOSに突きつけ,システムがクラッシュする状況と似ているというわけだ.
  • しかしこのアナロジーには限界がある.私のコンピュータの中で複数のプログラムが同時に走っているわけではない.それはCPUで常に単一のプラグラムが走る(そして高速でプログラムを切り替えている)シリアルマシンだ.私たちの脳はこれと対照的に,異なるデータを処理する異なるサブシステムを並列的に走らせている.そしてその中でどうにかして単一の決定を行わなければならないのだ.おそらくコンフリクトはサブシステム間の統合プロセスの不完全さから来るのだろう.

 
まずはコンフリクトについてそれはシステムコンフリクトだと説明がある.これは進化心理なモジュール間のコンフリクトだということになるだろう.
次に自然淘汰はマイナーリビジョン型で進む過程だとある.ここで一般問題解決型の単一システムにはならないことを説明をしているのだろう.これも適応制約の1種だといえるような気がするが,ヘイグはそういうとらえ方はしていないようだ.そして単一システムでないことよりもサブシステム間の統合プロセスがうまく働いていないことを問題として提起している.では何故コンフリクトを避けるような統合プロセスは装備されていないのか.ヘイグはここについて新奇環境を持ち出している.
 

  • 疑いなく私たちの現在の新奇な環境は(その問題に対する適応を欠いている中で)私たちに挑戦課題を突きつけている.
  • 私たちの進化環境では「なんらかのアセットに数十年投資してリターンを得る」ということはできなかった.退職プランは新奇な文化的環境であり,私たちはこれについての適応的意思決定メカニズムを持っていない.これに対しては一般目的解決メカニズムを利用するしかなく,それは(進化環境における適応によって)組み込まれた特殊意思決定メカニズムとコンフリクトを起こす.私の合理的解決策は短期的衝動に覆されがちだ.(ただしこの退職プランに関する合理的目標が,本当に適応度を上げるのかどうかは定かでない.実は短期的衝動に従う方が遺伝的な適応度は高いのかもしれない)
  • 強力な麻薬は別の新奇環境だ.中毒患者は心から中毒から逃れたいと願っているかもしれないが,この強く非適応的な(しかし過去環境への適応として進化的に組み込まれた)衝動に打ち勝つことができない.

 
つまり統合プロセスが装備されていないのは,進化環境ではそれが適応的意思決定の妨げになっていないからだという説明になる.この答えは最初のテーマと少しずれている.問題はコンフリクトの有無であり,それがうまく働くかどうかではなかったはずだ.いずれにせよ進化環境でうまく働くなら統合プロセスは進化しないだろう.*1
そしてさらに(進化環境では)統合プロセスが無い方がいいならコンフリクトは適応的デザインの一部ということになる.ヘイグは続いて適応仮説に進む.

*1:この場合にコンフリクト自体が生じるかどうか(モジュールと一般目的解決メカニズムが常に同じ結論を提示するのか,それともコンフリクトの末にモジュールが勝ってそれが適応的な意思決定になるのか)が本来のテーマに沿った回答になるはずだが,ヘイグはそこには踏み込んでいない.