Animal Behavior 11th edition Chapter 14 その4

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第14章 ヒトの行動 その4

 
言語の適応価は何か.まず言語がどんな役に立つのだけではなく,そのコスト(脳の代謝コスト,だましや操作に使われる可能性)を考えなければならないという前置きに続いて,2つの仮説が解説されている.これはさまざまな言語の適応価の考え方のごく一部に過ぎない.おそらく情報伝達自体の有用性という説明以外で著者がある程度信憑性があると考えているものを選んでいるの妥当と思われる.
 

社会的グループの形成
  • 鳥のさえずりの方言と同じようにヒトの言語にも地域性(別言語や方言)がある.これを生むメカニズムも共通だろう.言語やさえずりパターン獲得には学習プロセスが必要であり,それはたまたま生じた変異を別個体に獲得させ,それが地域ごとに蓄積していくのだ.
  • このようにして別言語になる前段階でも,方言は発話者のアイデンティティ(特定グループの所属)を示すバッチとして機能し,協力促進効果があったかもしれない.このような考えに基づく「所属機能仮説」は,言語は社会グループの形成に決定的だったと主張する.
  • なんらかの集団に属したいという動機は非常に強いので,人々は無意識のうちに周りの人の話し方を(同じ方言を話しているかどうかにかかわらず)真似るようになる.実際に私たちは唯一の手がかりが唇の動きだけだったとしても方言を真似ることができる.(実験結果が紹介されている)

 
最初に取り上げられているのは言語の適応価そのものについての仮説ではなく,言語の分岐しやすさ,方言についての適応的な仮説ということになる.この集団所属のバッチとしての方言や仲間内の隠語やジャーゴンの機能はしばしば触れられているところだ.ただ前置きでコストを考えなければならないとしながら,この仮説についてのコスト面のコメントがないのはやや整合性がないような気もするところだ.
 

言葉によるコートシップ(求愛)
  • ジェフリー・ミラーはまた別の言語の適応的機能があることを主張している.彼は言語の進化やその他多くのヒトの行動についての性淘汰の役割を強調していることで知られている.ミラーは言語スキルは「言葉によるコートシップ」において重要だと指摘する.
  • ミラーによる「性淘汰仮説」によると,男性は女性に対して自分がいかに言語的スキルに優れているかを(他の男性と競争して)ディスプレイする.これは女性に自分の配偶価値(のある部分)を示しているもので,それはいかに言語を,創造的に,楽しく,女性が喜ぶように使えるかにより示される.つまり言語は(ちょうどゴクラクチョウの鮮やかな羽と同じように),女性がより高度の言語的スキルを持つ男性を選ぶことにより,高度化複雑化したと主張する.
  • もちろん(性淘汰仮説が正しいなら単純に予測されるように)男性が女性と異なる言語的能力を持っているという証拠はない.あるいは女性が男性の言語スキルを評価できる能力にかかった淘汰圧が男性にかかった淘汰圧と同じように作用したのかもしれない.男性も女性も平均語彙数は6万語に達する.これはその他の類人猿がせいぜい数十の発声パターンのレパートリーしか持たないのと対照的だ.重要なことは,ほとんどの人は,(情報伝達のために)必要な語彙をはるかに超えた語彙を持っているということだ.もし自然淘汰が情報伝達のためだけに言語を作ったなら,このような過剰性は持たなかっただろう.
  • 語彙数に性差がないことが性淘汰仮説を否定できる証拠になるわけではない.結局多くの鳴鳥類においてもオスメスそれぞれ数多くの発声レパートリーを持っているのだ.(実際のリサーチが示されている)
  • おそらくより良い性淘汰仮説への検証は,女性が本当に言葉によるコートシップの際に言語スキルの高い男性を選ぶのかを調べることだ.(女性が本当にそういう男性を性的に魅力的だと評価したという結果が出たリサーチが紹介されている)だから女性は言語能力を認知能力のプロキシーとして配偶者選択に使い,それにより男性の言語スキルと女性の言語スキル評価能力(このためにはやはり語彙が多い方が有利になる)に淘汰がかかったということはありそうだ.それに加えて,言語スキルの高い女性は男性から選ばれるということもありそうだ.
  • もう1つ性淘汰仮説を支持するリサーチ結果がある.男性も女性も相手にユーモアのセンスがあることを好むのだが,その際に男性は自分たちのジョークに女性がどう反応するかを重視し,女性は男性が自分たちを楽しませてくれるかどうかを重視するのだ(ブレスラーほか2006).つまり男性は女子自身が面白いかどうかではなく,自分のジョークに笑ってくれる女性を求めており,女性は実際に面白い男性を好んでいるということになる.もし本当にそうだとするとユーモアリストである男性は比較的高い繁殖成功を得られることになる.そして実際に面白いと思われている男性の方がセックスパートナーが多いというリサーチがあるのだ(グリーングロスとミラー2011).

 
そしてミラーの性淘汰仮説がかなり詳しく取り上げられている.私はこの性淘汰仮説はかなり有力な考え方だと思っているが,あまり真正面から取り上げられることは少なく,ここできちんと取り上げているのは大変うれしく思う.性淘汰仮説ではなぜうそを簡単につけるような信号システムが進化したのかをある程度説明できる.性淘汰的な言語機能にとっては魅力的にしゃべることが重要で,語っていることが真実かどうかはあまり重要ではないことになる.そして(うそをつくのと異なり)魅力的に言語をしゃべるのはそれほど簡単ではない(だから能力についてのハンディキャップシグナルになっていて正直なシステムとして進化可能になる).これは(ここでは触れられていないが)性淘汰仮説の大きなメリットだと思う.