Animal Behavior 11th edition Chapter 14 その5

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第14章 ヒトの行動 その5

 
オルコックとルーベンスタインによる「動物行動」第14章.ヒトについてコミュニケーションと繁殖行動の2テーマのみを紹介する賞だが,コミュニケーションに続いて繁殖行動が取り扱われる.繁殖行動,特に配偶者獲得戦略に長期と短期があり,さまざまな性差が見られるというの初期の進化心理学の大きな成果だった.そして性差の存在の主張はイデオロギー的に遺伝的な性差の存在を否定する論者からの進化心理学への批判を呼び込むことにつながった.行動生態学の教科書としてここをどう扱うかが興味深いところだ.
  

繁殖行動

  • 多くの若者にとって最初に受ける繁殖行動のレッスンは高校の性教育クラスだろう.ここ何十年も教師は身体の驚異,セックスのプロセス,妊娠や性病感染のリスクを生徒たちに教えてきた.しかし(多くの動物たちにおいて,性病のリスクが行動の進化に影響を与えているし,オスとメスの戦略の違いからコンフリクト状況があるにもかかわらず)進化的,あるいは比較生物的視点から教えられることは稀だ.ここでは高校で教えられることのないヒトの繁殖行動を取り扱おう.

 
この記述はアメリカの高校についてのものだと思われるが,性教育の内容についてはおそらく日本でも似たようなものだろう.ちなみに東京都教育委員会の2019年の「性教育の手引き」(https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/press/press_release/2019/release20190328_02.html)によると内容的には生物的側面(性と妊娠の仕組み,感染症の予防),心理的側面,社会的側面に分けられ,心理的側面については異性への関心,不安や悩みなどへの対処,性的な発達への対応,性意識や性行動の選択などの内容が想定されているようだ.詳しくはわからないが進化心理学的知見の紹介はおそらくほとんどないと思われる.

 

ヒトの配偶者選択の進化的分析
  • ヒトの配偶者選択の分析は難しい.というのは多様な文化,規範,法律がヒトの配偶行動を取りまいているからだ.世界には一夫一妻社会もあれば,一夫多妻社会,一妻多夫社会もある.同じクランに属する相手と結婚を禁じられている社会もあれば,男性が幼女と結婚することを認める社会もある.結婚に伴う金のやりとりが婚資の場合も持参金の場合もある.
  • にもかかわらず,ヒトにも広く当てはまる生物学的な事実がある.女性は他の哺乳類のメスと同じように受精後妊娠期間を持ち,出産後は授乳する.男性も子育て投資できるし,多くの場合喜んで投資するが,繁殖の意思決定は女性側に(生理的,心理的に)主導権がある.この主導権は完全ではないが,多くの場合女性は何人かの候補者から自分の配偶相手を選べる(あるいは女性の血縁者がそれを選ぶ).
  • ここでは,まず男性も女性も複数の配偶戦略(長期的コミットメント戦略から短期的な一夜のセックス戦略まで)を選ぶことができるという前提からはじめよう.その中で男性,女性はどのように配偶選択を行うのだろうか.

 
ここではヒトの配偶行動は生得的な傾向があるとともに大きく文化的な影響を受けることをはっきり明示している.このあたりは予想される批判に対して前もって示しておくという部分だろう.そしてそこから進化心理学の知見が議論されていくことになる.