Animal Behavior 11th edition Chapter 14 その6

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第14章 ヒトの行動 その6

 
オルコックとルーベンスタインによる「動物行動」第14章.ヒトの繁殖行動についての前置きをおいたあとに本論が始まる.本論は配偶者選択と性的コンフリクトが扱われる.まずは女性の配偶者選択からだ.
 

女性の配偶者選択
  • 進化的には,女性は遺伝的に優良な男性や子育て投資が期待できる男性を配偶者として選ぶだろうと予測できる.
  • あるリサーチによると女性は確かに(顎が突き出て頬骨の張った)男性的な顔の男性を好んでいる(ジョーンズほか2008).これに加えて女性は左右対称,上半身の筋肉の多さ,平均以上の身長,低い声の男性も好んでいることが示されている.スロヴァキアのデータから身体的に魅力的な男性はより結婚し,より子どもが多いことが報告されている.

 
最初の論点は身体的魅力だ.基本的に男性顔,高身長,低い声,上半身の筋肉に多さに惹かれるということになっている.ただこのあたり(特に男性顔の好み)には個人差もあり,文化的な要因もからむところだ.後の方で男性顔の好みは先進国に限られるとコメントがあるが,日本人男性で超男性顔をコンピュータ上でつくるとバカっぽく見えてあまり好まれないという話を読んだことがある.ともあれ著者たちはこの説明を良い遺伝子を示すハンディキャップシグナルという視点から行う.
 

  • なぜだろうか.第9章と第10章で議論したことを思い出そう.ヒトにおいて男性の身体的魅力と繁殖成功の相関にはいくつもの要因が絡んでいるだろう.テストステロンレベルや健康さなどだ.そしておそらく最も重要なのは若い発達期の健康だろう.男性の場合テストステロンの影響で若い時期の発達にはリスクが多いのだ.それにもかかわらずに健康に発達できたことはよい免疫システムを持っていることに指標になる.
  • アメリカの15000人以上のデータから身体的魅力と健康(癌,高血圧,糖尿など)に頑健な相関関係があることが見つかっている.ここで第8章と第9章で見た鳥類の鮮やかなオスのカロチノイド色素と免疫系の関係を思い出そう.オーストラリアのリサーチャーは男性にカロチノイドを処方して女性が魅力を感じるかどうかを調べてみた.確かに処方された男性は対照群の男性より女性から魅力的だと判断された(フーほか2017).しかしながらこれらの男性の免疫系や健康状態は対照群の男性と差が無かった.健康と魅力の関係については明らかにさらなるリサーチが必要だ.

 
カロチノイド処方実験については知らなかった.処方されると外見的にどう変わるのかについて書かれてなく,微妙な感じだ.追試はされているのかも気になる.著者たちも更なるリサーチが必要だとまとめている.
 

  • 健康であれば女性から選ばれるだけでなく,男性間の競争でも有利になるだろう.ドミナントで男性的で魅力的だと判定される男性は(身体の全体的な強さのよい指標である)握力も強かった(フィンクほか2007).握力の高い男性は女性とより素速く性的関係に入ることが出来,子どもも多い(ギャラップほか2007).

 
健康状態のハンディキャップシグナルであれば,それを持つ男性は男性間競争でも有利になるだろう.派手なシグナルを持つオスがオス間競争でも有利であるという状況はさまざまな動物でも見られるものだ.