本書は種生物学会シリーズの最新刊.テーマは植物の行動生態学.これまで植物の行動生態学的な取り組みとして紹介されるものとしては性投資配分や生活史戦略にかかるものが多かったように思うが,本書は条件付き戦略(環境応答),血縁認識,自他認識,植物間コミュニケーション,情報伝達,感覚入力の処理,記憶あたりが扱われている.行動生態学の本丸(適応形質)というよりその周辺の適応を成り立たせている至近メカニズムに焦点が当たった一冊という印象だ.また血縁認識の議論があることを踏まえて血縁淘汰(包括適応度理論)についての理論的な解説(第5章)があるのも特徴になっている.
第1章 環境応答する種子:生物的環境に応じた可塑的な種子発芽 向井裕美 山尾僚
第1章では植物の種子の発芽戦略が扱われている.種子は休眠状態から吸水の刺激を受けて呼吸,エネルギー生産,発芽ヘと進むが,その際に周りの環境に応じて発芽タイミングを調整する.よくあるのは周囲の密度状況に応じた調整(高密度だと発芽を早める)だ.
ここではオオバコを用いた実験が紹介され,その種子が近隣に他種(シロツメグサ)が存在するか,同種(オオバコ)が存在するか,その同種個体が血縁かどうか(同じ親個体から分散した種子は近くにあることが多い)を認識して発芽タイミングを調整(他種と血縁個体がともに近隣にいるときに発芽タイミングを早める*1),さらに血縁種子間で情報をやり取り(胚間コミュニケーション)しながら発芽タイミングを同期していること,そしてそのような認識やコミュニケーションの仕組み(水分に含まれる化学物質を利用する)が解説されている.
かなり複雑な条件依存戦略となっており,神経系がないなかで微妙な調整がなされているのには驚かされる.
章末のコラムでは動物における環境刺激に応答した孵化タイミングの調整や胚間コミュニケーションの事例*2が解説されている.
第2章 植物における血縁認識:多様な隣接植物に応じた柔軟な対応 山尾僚
第2章では発芽以外の植物の血縁認識,およびその認識に応じた戦略が概説されている.基本的には血縁個体では土壌養分,水,光をめぐる競争を避け,そのリソースを非血縁同種個体や他種個体との競争に回すことが多くの植物で見つかっている*3.具体的には根の伸長の方向性や葉の展開の方向性が調整されることになる.
ここでは葉縁部にクローン株を多数形成するコダカラベンケイソウで,血縁個体ペアと非血縁個体ペアをそれぞれ同じ植木鉢に植える実験が紹介され,非血縁ペアの場合,根の伸長が抑えられ*4,葉縁部のクローン株による繁殖量が減少すること,血縁認識には根圏の化学物質が使われていることが説明されている.
さらにオオバコの実験に戻り,シロツメグサと血縁個体をともに植えたケースでは葉の展開がシロツメグサ方向へより伸びて,シロツメグサの成長を抑制していること(血縁個体間で協力して他種と競争していると解釈できる)が示されている.
章末コラムでは植物が競争相手を認識する手がかりが総説されている.
第3章 植物の自他認識:自己への巻き付きを回避する“つる植物” 深野祐也 山尾僚
第3章のテーマは自他認識.つる植物は他の植物や構造物に巻き付いて(自分で自重を支える構造をつくることなく)伸長展開するので,巻き付く対象の自他認識が重要になる(自分に巻き付いても支えられない).
著者はまずヤブカラシで実験し,確かに他種(セイタカアワダチソウ)や同種他株には巻き付くが,自株には巻き付かない(いったん巻き付いたものが巻き戻る)ことを確かめる.さらに自株でも生理的に接続していない株には巻き付くし,その接続が地下茎である(地下茎で分岐)よりも地上部である(地上部の茎で分岐)方が巻き付きにくいことがわかる.著者は,このような距離依存的な自己認識は1株からよく枝分かれして一面を覆うようなヤブカラシにとって適応的なのだろうと示唆している.なお同じ巻きひげで巻き付くキュウリで実験したところ自他認識は確認されなかった.著者は栽培化や人為淘汰によって失われた可能性を示唆している.
そしてヤブカラシの自他認識のメカニズムを調べ,他種認識と自種内の自他認識が異なるメカニズムによっていること,そのうち他種認識はシュウ酸化合物をキューとする接触に基づく化学的認識(揮発性物質の認識ではない)であることを突き止める.そして自種内の自他認識はシュウ酸化合物の認識ではなく,(詳細は分かっていないが)生理的な接続が関与する(おそらく植物が古くから持つ)ものではないかと推測されている.
この古くからある自他認識のシステムは興味深い.根の伸長の方向(自株の根との競争を避ける)などを考えるといかにも適応的な機能で,植物に古くからあるという推測は説得的だが,どのような至近的なメカニズムになっているのだろうか.
章末にはコラムが4本も収録されている.このうち「つる植物の登り方の分類」(この分野の草わけもダーウィンであり,巻き付き型,巻きひげ型,付着根型,とげ型,葉巻き付き型と分類したそうだ)では,つる植物の分類とそれに伴う興味深い問題*5が解説されている.続いてつる植物の巻き付きにどのような刺激が影響を与えるか,巻きひげの認識についての実践的実験法が紹介され,最後に植物の自他認識の総説的なコラム(自家不和合性,根の伸長の調整が解説されている)がおかれている.
第4章 植物間コミュニケーション:植物の匂いを介した情報伝達 塩尻かおり
第4章は植物の誘導防御とそこで生じる植物間のコミュニケーションが扱われる.最初に植物の防御戦略の概説がおかれている.植物は昆虫などからの食害をさまざまな方法で防御するが,そこには当然コストとのトレードオフがあり,食害リスクに応じて防衛を可変にする戦略(誘導的防衛)が有利になる場合がある.そしてそのような条件付き防衛戦略の1つが食害を受けている植物体が発する匂いを受容*6して(被害を受けていない植物体が)防御を発動するというものになり,ここには匂いを介した植物間コミュニケーションがあることになる.
ここで,匂いを受容した植物自体が防衛遺伝子を発現させたことを示した実験,タバコとセージブラシを使ってコミュニケーションがあることを示した野外実験(切られたセージブラシに隣接する野生タバコで食害が低下することを示したもの)がまず紹介される.そして続いて著者によるセージブラシ同種間での野外実験(切られた植物個体が発した匂いを受容したセージブラシで食害が低下する)が詳しく解説されている.さらにリサーチを広げると同じヨモギ属植物でも同種個体間コミュニケーションがある種とない種があること,セージブラシの匂いで誘導防御が発動する種としない種があること(トマトは発動,ルピナスでは発動しないなど)がわかってくる.(どのような種で生じるのか,どのような進化過程が考えられるのかについてはまだよくわかっていない)
著者はセージブラシの匂い成分を分析しようとして,そこに大きな個体差があることを見つける.そして自分と同じ遺伝子型個体の匂いでより大きな誘導防御が生じること,血縁度が大きいほど匂いが似ていること,血縁個体の匂いで誘導防御が大きくなること(つまり血縁認識ができること)を次々に明らかにする.またこの個体差にはクラスター(ケモタイプ)があり,地域差(方言)があることも見つけている.
著者は最後にこの知見の農業的な応用に進む.ダイズ畑にセイタカアワダチソウを刈り取って畝間にまいたりネットでぶら下げると誘導防御が生じて食害が減り,収穫量が上昇することを確認した(ただし若干苦味が増える).またミントを近傍に植えると栽培植物の誘導防御を生じさせることも見つけている.
匂い成分に大きな個体差があり,植物がそれを感知して血縁個体からのシグナルにより敏感に反応しているというのは驚きだ.また農業的な応用が可能かもしれないというのも面白い.野生植物だと防御にもコストがかかるから近隣に枯れ草があったからといって必ずしも繁殖成功が上がるわけではないだろうが,栽培植物だと昆虫の食害に対して常に防御不足状態にあって,この誘導防御が効果的なのかもしれない.興味深いところだ.
第5章 血縁淘汰概論:植物への応用 入谷亮介
第5章には数理生物学者による包括適応度(血縁淘汰)理論の解説が収められている.本書の中ではやや異色な章になっているが,これは本書を読み研究を進めるであろう植物研究者は必ずしも包括適応度理論に詳しくない場合もあり,しかも近年マルチレベル淘汰推しで血縁淘汰を貶める怪しげな言説が多いことから,無用な混乱や誤解が広がらないようにという配慮から収録されているのだろう.
まず最初に植物では親株の周囲に子孫株が定着することが多いため粘着的な(viscous)集団になりやすく,これは包括適応度理論がうまく扱える状況であることが押さえられている.
続いて近年の包括適応度理論をめぐる論争状況に触れ,著者の立場が整理されている.ここはさらっと書かれているが,(上記のような混乱や誤解を避けるためには)とても重要なところなので詳しく紹介しておこう.
- 論争の争点は(1)数学的な正当性,理論の有用性(2)マルチレベルで淘汰が生じている場面で用いることの正当性,一般性(3)検証可能性である.
- 上記3点について私はいずれも肯定的な立場に立つ.包括適応度理論は(1)集団遺伝学を礎とする数学的に正当で確立された理論であり,これまでに多くの問題解決に貢献してきており,(2)多くの生物現象に当てはまる前提条件の元で,数学的に裏付けられた示唆を豊富に与え,進化現象の理解に資するものであり,(3)量的遺伝学モデルへの拡張による検証可能な予測を提供する,からである.
- 以下の状況は好ましくないと考える.(1)直感的な説明のみが流布すること(2)理論的定式化を経ずに,研究者の「賛同」の立場の決定や分断が生じること(3)セマンティックな問題として側目におく態度(このような態度は建設的とは言えない)
- (包括適応度理論に対して)非常に偏向的な意思攻撃的な論文を目にした場合は,慎重に接し,幅広く文献比較し,(理想的には)集団遺伝学,量的遺伝学という(高校数学で理解可能な)数理解析に取り組み,理解を進めることを勧める.
非常に抑制的な書き振りだが,要するに,巷にある包括適応度理論への批判や攻撃に対しては,(ほとんどの場合)高校数学程度の理解で数理的に詰めればナンセンスであることがわかるだろうということだろう.なおここでは包括適応度理論とマルチレベル淘汰理論の数理的な等価性についても触れていた方がさらに誤解や混乱を防ぐ効果があったのではないかと思う.
ここから社会行動(同種他個体との相互作用)の分類(相利,利己,利他,スパイト),植物における社会行動,適応度,血縁度,ハミルトン則が解説されている.適応度は相対的な概念であること,ハミルトン則に現れるB, Cは適応度の変化量であること(種子生産量(繁殖成功)や生存率ではないこと)が強調されている.(なおここでは適応度の定義に関して,一般的な説明としてよく出てくるアクター目線で計算される「包括適応度」とレシピアント目線で計算される「隣調適応度」が一致することについてのややマニアックな解説があって楽しい).
続いて血縁認識が血縁淘汰が作用するため*7の必要条件ではないことが強調され,作用するための十分条件*8が,集団の粘着性,血縁認識機構(必要条件ではないが,十分条件ではあるということになる),緑ひげ効果*9の3つであるとまとめられ,解説がなされている.
最後に包括適応度理論を植物に適用することの展望が語られている.包括適応度理論の動物への適用において最も成功した分野は性比理論であり,植物の性配分や繁殖様式の進化の解明に大きな役割を果たすことが期待できること,動物行動の研究においては人の価値判断が紛れ込む誤謬が起こりがちだが,植物ではその懸念が低く,逆に動物行動研究におけるこの問題の克服に役立つのではないかということが指摘されている.
第6章 環境情報の受容と処理様式:植物の組織特異的な環境センシング 遠藤求
第6章では植物がどの組織でどのような感覚受容と情報統合を行っているかという問題が扱われる.冒頭で植物の概日時計が概説され(遺伝子の転写・翻訳を伴うフィードバックループを利用したものであるところは動物の概日時計と同じだが,動物のそれとは全く構成因子が異なり,相同性はない),そこから本題に入る.
最初に植物はどこで光刺激を受容しているかが扱われる.シロイヌナズナではフィトクロムAとクリプトクロム2という赤色/遠赤色光,青色/紫外線領域の受容体を身体中で作っている.そして実験により長日条件での花芽形成を行うには維管束におけるクリプトクロム2のみが重要であること,日陰を感知して葉や茎を伸ばして避けようとする(避陰反応)には葉肉のフィトクロムAが重要であることが示されている.つまり身体のあちこちに用途の限られた「目」があるということになる.
次に概日時計がどのように働くのか(どのように情報を統合するのか)が扱われる.時計遺伝子の発現状況を調べると,葉肉や葉全体で発現量の多い遺伝子は維管束で発現が低く,葉肉や葉全体で発現量が少ない遺伝子は維管束で発現が多いことがわかった.またこの逆相関は発現時間や発現リズムの位相にも見られ,これは植物が維管束で情報統合を行っていることを示唆している.そしてさまざまな操作実験により,葉肉の概日時計は主に葉肉の遺伝子発現だけを制御し,維管束の概日時計は維管束だけでなく葉肉の遺伝子発現をも制御していることが示された.
では本当に維管束は植物の「脳」なのか.上記の実験は長日条件での花芽形成の結果であるが,温度刺激に対する茎の伸長反応に関して調べると表皮の概日時計が重要であるという結果になった.著者はこれは植物の概日時計は非集中型のネットワークになっていることを意味しており,日長と気温は関連が深いが独立の環境刺激として捉えた方が適応的になるために独立した制御中枢が進化したのだろうと説明している.
第7章 植物体内の情報伝達:長距離移行ペプチドを介した植物の変動窒素環境への適応 松林嘉克
第7章は第6章に引き続いて植物の情報統合の仕組みを扱う.ここでは特に情報伝達がテーマになる.
植物が窒素栄養を得るためにどの方向に根を伸長させるかという問題に関しては,分岐した根の周囲の窒素栄養状況(硝酸イオンの多さ)を判断できた方が効率的になるが,そのためには情報を交換しなければならない.植物がどのように窒素要求情報を伝達しているかが問題になる.
著者は20年以上前に植物の細胞増殖の密度依存性を研究していて,密度依存型の5アミノ酸から成る分泌型ペプチドホルモン(PSK)を発見した.3年後にそれをコードする遺伝子ファミリー(CEPファミリー)が見つかり,それらが根で発現し,根の成長に関与することもわかった.さらにCEP(CEPファミリーにエンコードされるペプチド)と直接結合する受容体CEPR1(および非感受性の変異体CEPR2)を見つけた.CEPR2の表現型解析によりCEPが窒素応答に関連していることもわかった.さらにその過程をマイクロアレイ解析し,CEPR2を持つ個体の根において主要硝酸イオン輸送体(NRT)の発現量が大きく低下し,硝酸の取り込み活性が半減していることを突き止めた.
ではなぜ根からの窒素吸収に根で発現するペプチドホルモンが必要になるのだろうか.著者は先行論文で(根が窒素欠乏に陥ったときに誘導される)全身的窒素要求シグナリングに関連するとして特定された遺伝子群がCEPR2の存在で発現が低下する遺伝子群にすべて含まれていることを知り,CEPが全身的窒素要求シグナリングに関与していることに気づき,実験によりそれを確かめる.著者はこのシグナリングの経路をさらに探り,窒素欠乏になった根でCEPが生産され,それが道管によって地上部に移動し,葉の維管束で受容され,篩管で窒素欠乏シグナルCEPDが生産され,それが根に移動し,周囲に窒素が十分にある根において硝酸イオン輸送体の発現量が上昇することを見いだした.
ではなぜ窒素欠乏の根から窒素豊富な根までの交信にわざわざ地上部の葉が使われているだろうか.著者は根由来のシグナルは道管を伝って吸い上げられる過剰な水によって希釈されるので,そのままで根から根への交信ができず,いったん蒸散作用のある葉で濃縮してから受容するしかないからだと推測している.
本章は植物組織間の情報伝達の謎が少しずつ明かされる探求物語になっていてとても面白い.そして神経系のような情報伝達に特化している組織を持たない植物においては,情報伝達に物質循環に使っている維管束を利用するしかなく,そこで篩管が非常に受容な役割を果たすという一見意外な結果が説得力を持って提示されている.この第6章,第7章で解説される維管束の役割については,進化はすでにあるものを利用して何とか機能を果たす「鋳掛けや」的な仕事の進め方をすることに思いをはせれば,極めて当然なのかもしれないと改めて感じさせてくれるものでもあると思う.章末のコラムでは植物における遺伝子名,タンパク質名の表記慣行が解説されている.
第8章 植物の記憶:誘導防御とプライミング 本庄三恵 工藤洋
第8章では植物の記憶がテーマとされている.記憶の例としてまず「冬の記憶」と春化が紹介される.本章では別の記憶現象としてプライミング(先行する経験が後のストレスに対する抵抗性や耐性を高める)を扱うということになる.
まず第4章でも紹介された植物の誘導防御がより詳しく解説される.そしてこの誘導の条件が自身の食害や病害の経験であるならプライミングを利用した防御ということになる.実例としてはウリ類炭疽病菌に攻撃されたことのあるキュウリは2回目の菌の侵入に対して細胞壁に物理的障壁を構築する例が紹介されている.
またここではプライミングの至近的なメカニズムも詳しく解説されている.メカニズムは実に多様で,誘導防御のシグナル受容,シグナル伝達,防御物質の蓄積,防御遺伝子の発現それぞれの段階でその過程を強化するメカニズムが知られていて,ここではそれぞれ詳しい説明がある.
さらにウイルスに対するRNAサイレンシングによる防御,ウイルスと植物の相互作用の季節性(増殖速度や病原性の変化)とそれに対する防御戦略,その1つとしての季節プライミングが解説されている.
本章の記述は詳しく圧倒的で,植物のさまざまな条件付き防御戦略とその細部の面白さにあふれている.また章末のコラムではプライミングの1つの仕組みとしてのエピジェネティックスティック制御が説明されている.
以上が本書の内容になる.伝統的な行動生態学よりも至近メカニズムや遺伝子にも踏み込んだ内容になっている,いかにも最新の研究動向が反映されている感じだ.情報統合に維管束が重要な役割を持っているとか(考えてみれば当然だが)食害や病害への防御が極めて多様で巧妙な仕組みになっていることなどはとても印象的だった.装幀も凝っていて,各ページの上部に各執筆者のマーク(多くは植物組織の模式図)があしらわれていてとてもおしゃれだ.行動生態学,植物学に興味がある人にはとても楽しい一冊に仕上がっていると思う.
*1:このことの適応的な意義は興味深いがここではあまり解説されていない.適応的な意義は発芽後の競争状況に関することとして第2章で解説されることになる.基本的には血縁個体が近隣にいるときには血縁個体と協力しながら他種と競争することができ,より早期に発芽した方が有利になるということかもしれないと示唆されている
*2:(樹木の葉の裏に卵塊がある)アカメアマガエルの胚はヘビの振動を感じると孵化を早め,捕食率を下げる.またヘビやカメや昆虫で.ひとかたまりになっている卵の孵化が(成長が遅れている胚がコミュニケーションを通じて代謝を上げるなどにより)同調する現象が観察されている
*3:リソース競争以外では誘導防御における協力の増加が見つかっている
*4:競争が激しいためにそうなると考えられている.何らかの成長抑制物質を互いに放出し合っている可能性が示唆されている
*5:巻き付き型は北半球でも南半球でも右巻きが大半だが,その理由はわかっていないそうだ.巻きひげは様々な植物で独立に進化した代表的な収斂形質で,元となる組織も茎,葉,花と多岐にわたる.
*6:植物では感知といわずに受容という用語を用いるようだ
*7:血縁淘汰が作用する」というのはここではアクターがレシピアントとの血縁度に応じて可塑的な戦略をとることを指している(基本的にはハミルトン則が成り立てばその遺伝子頻度は増加するので,それだけなら特に十分条件を考える必要はない)
*8:血縁度に応じて可塑的に反応するには血縁度と相関する何らかの手がかりが必要で,それが粘着性(距離が手がかりになる),血縁認識,緑ひげマーカーということになる.これを十分条件と表現するのがいかにも数理学者らしくて楽しい.なお著者は「充分条件」の表記を用いている.深い意味があるのかもしれないが通常は「十分条件」と表記されることが多いのではないだろうか.
*9:ここで,緑ひげ効果は性淘汰理論のセクシーサン仮説に相当すると解説があるが,どこがどう相当するのかの解説がなく,理解が難しい.緑ひげ効果は遺伝子のマーカーにより利他行動をするべきレシピアントとそうでないレシピアントを区別できるというもので,セクシーサン仮説はメスが(コストがある)派手なオスを好むのは,(そのような好みがあるなら)そのようなオスとの間にできた息子は派手な形質を受け継ぎモテるというメリットがあり,それが派手な形質のコストを上回るからという説明(そして判別にコストがあるなら長期的には保たれないとされるもの)で,ぴったり相当するようには思えない.いかにも面白そうな視点なので詳しい解説がほしかったところだ.