「天才ガロアの発想力」

天才ガロアの発想力 ?対称性と群が明かす方程式の秘密? (tanQブックス)

天才ガロアの発想力 ?対称性と群が明かす方程式の秘密? (tanQブックス)


2011年はガロア生誕200年なのだそうだ.*1 本書はそれをちょっと先取りして出版された本ということなのだろう.


本書の内容は「何故5次以上の方程式に(四則計算とべき乗根による)解の公式がないのか」という問題をガロアはどのように解いたのかというものだ.私がこの本を手に取ったのは,これまで,ガロアの劇的な生涯についての逸話や,群論の初歩の解説などは読む機会もあり何となくわかっているのだが,その群論と5次以上の方程式の解の問題が具体的にどうつながっているのかについては易しく解説している本に出会ったことがないからだ.直近でこの話題に関して面白かったのは,ジョン・ダービーシャーの「代数に惹かれた数学者たち」という本だが,やはり,群論と方程式の解の公式についてはあっさり流してあった.逆に本格的なガロア群論の本は非常に難解でとても私の歯が立つものではない.というわけでいつも何となく不満に思っていたところの本書の出版というわけで,一も二もなく飛びついた.何しろ著者の小島先生は序文で上記の出版事情を挙げて「この中間を狙いました」と宣言されているのだ.


中身は期待通りのもので,かみ砕いてかみ砕いて,ガロアの発想のキモの部分を解説してくれている.特にガロアの方式を2次方程式に適応するとどのように解の公式があることを説明できるのか,そして少し深い解説の後,今度は3次方程式の場合にはどうなるかと順番に進んでいくのは非常に理解の助けになる構成だ.
(ここからは私の理解のメモ書きでいい加減な部分もあるが)要するにn次方程式には,虚数も含めるとn個の解がある.そしてこの解の集合について,解同士を入れ替えるという演算に関するある種の対称性を考えることができる.そして巡回的な入れ替えに関して,自明でない数形式の入れ替え可能な解があり,それがある種の群構造を持っていれば,四則計算とべき乗根で解けることが導き出せる.(ここの部分の詳細は,空中から降ってきたような式が飛び出してきて,まことにミステリアスかつエレガントだ)そして5次以上の方程式では,その群構造が成り立たない場合があるという順序で証明はなされているということだ.


この解説の後,最後の1章で,ガロア理論のその後ということで,ポアンカレ予想の解決,被覆空間の群論,そして微分方程式への拡張について簡単に触れられている.この部分はそれまでとまったく異なり全然かみ砕いて無くて,かゆいところに手が届かないもどかしさと知的好奇心を刺激する作りになっている.もしかすると続編への「釣り」なのだろうか.もしそうならとりあえず微分方程式への拡張について本書同様のかみ砕いた本が出版されることを希望したい.


いずれにしても,本書は個人的にはこれまでずっと解決されなかった部分を埋めてくれたもので,非常に満足感が高い.同じような不満を持っていた数学好きの方々にはど真ん中ストライクの本だと推薦できる.


関連書籍


本書の内容の外側の代数の部分を語ってくれる本だ.私の書評はhttp://d.hatena.ne.jp/shorebird/20080529

代数に惹かれた数学者たち

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*1:ということはダーウィンと同時代人ということになる.もちろんガロアは若くして死んでいるので活躍した時代は随分異なることになるが.