日本進化学会2016 参加日誌 その2

大会初日 8月25日 その2


進化言語学のセッションの後は口頭発表に.今年は生態分野の発表が少ない気がする.

口頭発表

最初はRoom2へ

Patterns of archaic human introgression in Southeast Asian populations Timothy Jinam

東南アジアのヒトのDNA分析の結果についての発表.この地域は古くはインド周りからネグリト系が,続いて南中国からオーストロネシア系が流入し,最後に中国から第3波が流入している.この中でアンダマン島マレー半島,フィリピンにいるネグリト族について,近隣のオーストロネシア族と比較しながらSNPを解析したもの.この結果フィリピンのネグリト系にはオーストロネシア系より多くデニソワ人の遺伝子が見いだされた.この結果をまず南インド,南中国の最初の2波の流入と結びつけて人口動態を再構成をしたもの.


サピエンス集団のデニソワ系の遺伝子も地域によって濃さがいろいろでなかなか面白い.

類人猿と比較したヒト特異的皮膚形質の獲得について 荒川那海

ヒトの皮膚は近縁の哺乳類に比べて体毛が少なく,汗腺が多い.これは高い体温調整能力に関与している.これの遺伝的基盤を調べてみたというもの.
ヒトと類人猿で発現解析を比較した結果,体毛関連,コラーゲン関連で差異がいくつか見つかった.コラーゲン生成反応の発現が高いのは皮膚がしわになりにくい効果を与えていると思われる.


ここでRoom1に移動.

腹足類殻形態の形態空間における発生的制約 野下浩司

形態を表す座標軸の転換に関する発表.
貝類の形態を表すラウプモデルは貝の成長について3つのパラメータを設定することで可能な巻き貝の形態を表せる.
すると形態の変換についは3次元座標上の動きとして記載できる.ここでこの成長3パラメータ間に方程式のような関係が成立しているなら,うまく座標転換すれば3次元の動きを2次元上にマップできるというもの.


琉球-本土間における三次元顔面形態比較:FST-QST解析による中立性検定 木村亮介

ヒトの顔面には個体差があり,集団内,集団間(民族間)で違いが見られる.
ここで琉球と日本本土で,祖父母の出身地アンケートとDNAのゲノムワイドSNPデータの主成分分析,およびコンピュータで座標を採った顔面の形態データの主成分分析をおこなって地域ごとの差があるかを分析し,さらにFST-QST解析をかけて,その差が淘汰圧によるものか中立浮動で説明可能なものかを調べた.
結果,地域ごとの差は顔面形態と相関を持つSNPとして確かに存在し,その一部は中立浮動では説明できない(淘汰がかかっている)ということを示唆しているというもの.

昆虫の翅多型における密度依存性の進化の理論研究 上岡駿宏

一部の昆虫には羽根の二形が見られ,これは成長途中での密度によって分化する.これについて密度を入力情報としてホルモンレベルを分散させ,さらに閾値を設けるモデルを組み,実際の観察と符合するかどうか見たもの.
なかなか口頭発表で数理モデルのポイントを理解するのは難しいが,ホルモン濃度分散と濃度閾値の二つのパラメータを持つので,かなり自由にフィットさせられるように思われた.


以上で初日は終了だ.


なお今日のランチは東工大生御用達のラーメン屋「むらもと」でいただいた.