読書中 「Genes in Conflict」 第8章 その6

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements



今日はフィーメイルドライブの最後.いったん極体になる運命になったあともあきらめないで何とか生殖系列に戻ろうとする細胞のあがき.想像力を越えるような現象だが,理屈に合っているこのような現象を知るのは進化生物学の奥深さを実感するひとときである.



第8章 フィーメイルドライブ  その6


3. 生殖系列に再参加する極体


極体を避けて卵に潜り込む方法に対して,減数分裂において非対称を利用するもうひとつの方法は,当該利己的遺伝要素が入ってしまった極体になるはずのものをトランスフォームして生殖系列に戻す方法である.実際にいくつかの種では極体が生殖系列に再参加している.
これには2つ方法がある.まず極体が精子のように振る舞い卵と融合して二倍体に戻るという方法.一種の雌性単為生殖になる.もうひとつは極体を卵に変えてしまうものである.いずれもこれが極体にある遺伝子の効果(この場合のみこれが利己的な遺伝子ということになる)なのか,周りの二倍体組織の遺伝子の効果なのか確かめられていない.


(1) 雌性単為生殖

卵と極体のひとつが融合する場合(端融合)と,真ん中の2つの極体が融合して卵になり,本来の卵が退化する場合(中央融合)の二通りが観察されている.
さらにそもそも減数分裂の最初の2細胞が融合して,常に二倍体の卵とひとつの極体しか作らない種もある.これは実質的にクローン的な生殖になる.((私見)クローン的というより自家受粉的ではないのか? 交叉は起こらない?)またこれが時々生じるような種もある.

これまでの進化生物学のモデルでは,このような単為生殖は性の2倍のコストを避けるための「母親の特性」としてモデルを作っていた.しかしこのような単為生殖はもしかすると極体の遺伝子により支配されているのかもしれない.極体の「利己的な」遺伝子効果と考える方が,こういう性質が進化する条件は緩くなるだろう.


(2) 性的な極体

いくつかの生物では2つ,あるいは4つの減数分裂による半数体が卵になる.ベンケイソウ科のセダム属のある植物では一度に2つから4つの原卵細胞が減数分裂をして,それぞれ4つの卵ができるため,受精を巡って卵(極体)同士の熾烈な争いが生じる.
なぜある種ではすべて卵になり,ある種では極体ができるのだろうか.これは母の遺伝子の発現なのか,極体の遺伝子の発現なのか.またこのような現象は進化的なタイムスケールではどのような変遷をたどるのだろう.著者はこのような卵同士の競争は母親の遺伝子により速やかに抑制されると予想する.
このような例は動物でも報告されている.ヒラムシの仲間では第一減数分裂の生成物が同じ大きさで,最終的に2つの卵が形成される.