
大会二日目 11月30日 その5
大会二日目.ランチタイムにはポスター発表も行われ,そこから総会,そして最後の口頭セッションになる.
口頭セッション4
神経発達症(発達障害)の進化精神医学的考察 髙野覚
神経発達症(発達障害)の進化精神医学についての発表.現在の各障害の進化精神医学的な解釈,そして過剰診断の恐れがあることについての注意喚起がテーマとなっていた
- LD(学習発達障害)には,識字障害,書写障害,算数障害などがある.これらの技能は人類史の中で比較的新しくなされるようになったもので,庶民層に普及したのは近世以降になる.それまではこれらの発達障害は生存繁殖に特に不利には働かなかったと考えられる.
- ASD(自閉スペクトラム障害):人類史を通じて,ヒトは部族内での協力を行ってきたと思われるが,都市化が進むようになって,その認知的な側面が重視されるようになった.
- ASDは,システム化思考,過集中,細部へのこだわり,反復性などが特徴とされており,これは道具作りなどで有利であった可能性がある.ASDに対しては,超男性脳仮説,認知多様体の一部,サバン症候群との関連などのテーマがいろいろ議論されている.
- ADHD:ハートマンはADHDにかんしてハンターvsファーマー理論を提示した.ハンターにおいては衝動性,多動性,注意の変動が,即時行動,探索,環境変化への対応に有利だった(これに対してファーマーでは計画性,忍耐,注意の持続が有利になる)と考えるものだ.ADHDについてはDRD4遺伝子との関連,創造性との関連(ダ・ビンチ,エジソン,アインシュタイン,イーロン・マスク,ビル・ゲイツなどが取りざたされる)などが議論されている.
- このハンターvsファーマー理論には,狩猟には抑制や忍耐が重要だったはずなどの批判もある.
- これらの発達障害には現在過剰診断および過剰投薬の問題があると考えている.
- まず診断基準が過拡張されてきた.そしてASD,ADHDの診断数が非常に増えている.学校や職場でうまくいかないとすぐ診断を受けるということになりがちで,容易に診断され,投薬される.ADHD患者によく投薬されるメチルフェニデートは短期的には集中力向上や多動抑制に効果があるが,長期的な脳発達には懸念があると考えている.
- 背景には現代社会において「協調性」が過度に偏重されているということがあり,視覚思考,拡散思考,創造性が抑圧されている.これは自己家畜化の方向と同じで,攻撃性を低下させ,協調性を上げることに繋がる.
- 発達障害を「異常」と捉えるのではなく,「認知的多様性」と捉えるべきだと考える.
社会的環境下での心理的因子構造の進化的再編:エージェントベース・モデルによる⻑期シミュレーション 安念保昌
社会的行動の変容をエージェントベースモデルと因子構造分析を統合して検討したという発表
- これまでラットでいろいろ調べてきた.ラットに攻撃的系統と協調的系統をつくり,合わせると何が生じるかなどと調べてきた.ヒト社会でいうと移民の問題に関連があるところになる.
- このような攻撃的/協調的を心理因子と捉え,囚人ジレンマゲームをエージェントベースモデルで進化シミュレーションし,どのようなパーソナリティ構造が創発するかをみようと考えた.エージェントには8種類の因子ベクトル(ダークトライアド,攻撃的,利他的,いじめ傾向など)を与え,5環境下(平和的社会,攻撃的社会,開放的社会など)で囚人ジレンマを行い,利得にあわせて繁殖し,世代交代する.
- 結果,環境ごとに様々な相互作用サークル,因子分布が現れた(アトラクター要素を含め詳しい説明がある).これらは環境にあわせて心理的特性の構造が進化し得ることを示すものだ.
集合知における全員一致規則の頑健性:確率的に意見表明する話し合いのダイナミクス・モデルによる検討 竹⻄海人
(SNS言及不可マーク付き)
全員一致規則が衆愚を防ぐ効果を持つのかについて分析したもの
以上で口頭発表が終了だ

諸連絡・若手発表賞授与・閉会挨拶
若手発表賞
発表賞に選ばれたのは以下の3名
日下部春野 関係流動性と評判情報流通の文化差:オンラインレビューを用いた大規模国際比較
菅沼秀蔵 集団意思決定の効率性と柔軟性:異なる社会学習アルゴリズムの集合的帰結
齋藤悠輔 高信頼者はなぜ他者の信頼情報に敏感なのか:ベイジアン・アプローチによる説明
閉会挨拶 会長 竹澤正哲
- 今年も盛況な大会となった.石井委員長をはじめ斎藤さん,堀田さん,中田さんの実行委員会の方々にまず感謝いたしたい.
- 私の会長も2期目の1年目ということになる.昨年から常務理事を一新し,世代交代,若返りを図った.引き継ぎに万全を期して残っていただいていた大坪さん,平石さんの延長保証期間も終了し,いよいよ来年からは新しい方々と運営を行っていくことになる.よろしくお願いしたい.
- 大会の発表も新しい方々の顔が見え,幅も広がっている.昨今の大学院生減少の中上手く機能していると思う.
- 本HBESJは慣例としていつも眞理子先生に最後締めてもらっている.今年もお願いいたしたい.
締めの挨拶 長谷川眞理子
- まだまだ引退してなくて忙しくしてます.大会参加費も払いそびれて締め切りすぎているのに気付いて,事務局の方に何とか便宜を払ってもらったような次第です.
- 毎回参加できて本当に楽しく思います.内容的には去年,発表がちょっとシミュレーションと数理モデルに偏っているのではと苦言を呈したと思いますが,今年も口頭発表はそうでしたね.発表を聞いても,人間のどういう場面のどういう行動を考えているのかのイメージがあまりわかなかった.具体的にどのような協力で,どのような人々なのか.大規模匿名社会の行動と小規模伝統社会の行動ではずいぶん違ってくると思う.一方,ポスターにはいろいろ人間を感じさせるものもありました.
- 私自身は人間を扱うことに自信が出てきたのは45歳ぐらいからでした.ここは若い人が多くて,私が自信を持ち始めた頃よりも若い.しかしとても活発に発表している.この若い人たちが,私が自信を持ち始めたような年代になると,さらに研究が深くなるだろうと思うと楽しみです.大いに期待してます.
- 運営に当たられた方には感謝です.でも今年懇親会がなかったのはとても寂しかった.これまでつながりがなかった人と研究を通じて話が出来る貴重な機会だと思う.来年はあるんだろうね(笑).
- 来年の大会も楽しみです.今回の大会運営,ありがとうございました.
以上で2025年の日本人間行動進化学会は終了だ.私もここで運営の方々には感謝の意を表しておきたい.ありがとうございました.
雑司が谷公園

鬼子母神表参道商店街
