読書中 「Genes in Conflict」 第9章 その1

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements



今日からB染色体.通常の染色体に対し余分にあって,ふらふらと減数分裂で対合せずに増える染色体をB染色体というらしい.B染色体に対して通常の染色体はA染色体と呼ばれるというネーミングのセンスはどうか.ほとんど有害でドライブするが,有益なものはドラッグするというのもいかにも自然淘汰が絡んだ力学系的で興味をそそる.「背教者」(renegade)という形容はなかなかトリヴァース的だ.このあとの内容が楽しみになる.



第9章 B染色体  その1


B染色体とは通常の染色体(こちらはこの文脈ではA染色体と呼ばれる)とは別の付加的な染色体であり,いくつかの種に普遍的にみられる.定義からいっても彼等はホストにとり必要な染色体ではない.そして彼等はしばしばホストに有害な影響を与え,(特に増えすぎたときには有害だ)利己的に増殖する(ドライブする).まれに中立的なもの有益なものもある.中立的なものはメンデル比での伝達をし,有益なものはドラッグする.

減数分裂においてB染色体が2つ以上あると,それらは互いにペアになりキアズマを作る.つまり彼等はいわゆる三倍染色体(trisomic; もとの相同染色体とペアを作る余分な染色体,ダウン症などに生じる3つめの余分な染色体)ではない.また彼等は通常の2倍体制限(2つの相同染色体セットでしかうまく増殖できない)を受けず,ホストの中でどのようなコピー数でもよい.もともとは通常染色体起源だと思われるが,彼等は今や独立して遺伝的なパラサイトなのだ.そしてホストへのネガティブな影響を減らし,自分たちの増殖効率を上げるように進化している.

表現型効果においては,Bが見つかる生物の半分において,Bはヘテロクロマチン(異質染色質:真性染色質(ユークロマチン)に対して密に凝集しており,この領域ではあまり転写が起きない)で,自分の増殖以外の表現型効果を抑えている.

トランスポーザブルエレメントよりは少ないものの,Bは非常によく見つかる利己的遺伝要素である.顕微鏡で余分にあるヘテロ的なバンドを持つ染色体としてよく発見される.このため発見されたのは100年以上前だ.発見された生物はすでに2000種以上に及び,今も細胞的に調査がされるにつれて報告例は増えている.よく調べられている英国の種子植物でBが報告されているものは約15%程度である.しかし深い研究はまだ始まったばかりであり,系統分析はほとんどされていない.

本書の説明はまず非メンデル的な遺伝の実態からはじめ,ホストに与える影響との関連,近親交配との関連,ゲノムの大きさ,染色体の数との関連,動原体の位置との関連をみていく.
Bの中にはほとんど動原体だけのようなものから,他の父由来の染色体を殺して広がるものまで様々なものが進化している.Bは通常の染色体の背教者であり,2倍体の制限から逃れて独立して進化しているのだ.