読書中 「Genes in Conflict」 第9章 その15

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements



著者たちがB染色体と性比というエントリーの入り口で振っていた,「ドライブをかける方の性に性比をあげている」という現象は本当にあるのか.ここへきて著者はその証拠はじれったいほど(tantalizing)はっきりしないと述べる.
まずカラシン科の魚Astyanax scabripinnis.オスにはB染色体が無く,メスのみにあり,発見された間性(intersex)の個体はすべてB染色体を持っていたという.確かにこれだけでは状況証拠だ.
つぎにホウネンエビ.B染色体は今度はオスのみにある.これも状況証拠.
X*Y染色体(X*はYとの組み合わせで個体をメスに変え,自分自身はドライブする)のあるレミングでは,X*が集団で広まると性比をメスに大きく傾けるので,もしB染色体が性比をオスに戻せるなら非常に有利になれるだろうと著者は説明している.たしかにこれはPSRが広まるのと似た状況なのかもしれない.しかしB染色体とY染色体が似ているのでB染色体はY染色体から派生したのだろうということ以外には何も証拠はないらしい.確かにこれではよくいってじれったいというところだ.


そもそもなぜB染色体はどちらかの性でしかドライブしないのだろう.素人考えではどっちでもドライブした方が有利ではないかとしか思えない.ここはこの究極要因と進化的起源を是非詳しく解説してほしいところだ.というわけでここは読者にとってもtantalizingである.


最後にセリバオオバコでB染色体とオス機能の不稔が相伴っている現象について.もしオスが不稔になってもその部分のリソースをメス機能につかえる仕組み(reproductive compensation)があるなら,植物に純粋なメス化を起こすB染色体があると有利になるだろうという.ここの説明も何となく消化不足だ.そもそもオスの不稔を引き起こしている原因は何なのだろう.さらにオスが不稔になった場合にはB染色体に限らずどんな染色体上にある遺伝子もメス化を進めるのではないだろうか.(もちろんそこでドライブするB染色体にとってはもっとも都合がいいだろうが.)

要するにとても面白そうな性比とB染色体だが,まだまだこれからの研究待ちというところだという印象を受けた.




第9章 B染色体  その15


7. B染色体と性比


(4) B染色体が性比に与えるその他の影響


B染色体がドライブをかける側の性を増やす方向で性比をゆがめている証拠は,じれったいほどはっきりしない.
B染色体がきわめて小さい場合を除くと,多くの場合性染色体のサイズである.これはBの起源の一部を物語っている.


(5) オオバコにみられるオスの不稔


セリバオオバコでは単一の染色体がオスの不稔と相伴っている.繁殖的補償(reproductive compensation)があるのなら,自然淘汰は,ドライブから利益を得るために,雌雄同体を純粋なメスに変えるB染色体を有利にするだろう.