読書中 「Genes in Conflict」 第10章 その1

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements



今日から第11章に突入.この大著もあと2章を残すのみになった.よく知られているものから研究が進んでいないものという順番になっているようだが,読み進むにつれて迫力のある利己的遺伝要素ぶりがますますすさまじく,深い魔境に足を踏み入れていくような気になる.
さて第11章はGenomic Exclusion.定訳があるのかどうかよくわからないのでここではゲノミックエクスクルージョンと表記しよう.これは個体内で片方の親由来の染色体セットをすべて捨ててしまうというドライブ様式らしい.やはりメカニズムやこれに寄与する遺伝子はよくわかっていないらしい.全部捨ててしまうのだから,PSRと似ている気もするし,オス親からの染色体を全部捨てればこれは単為発生と同じことになるのではないだろうか.とりあえず読み進めよう.


ゲノミックエクスクルージョンは3種類知られているらしい.PGL(paternal genome loss)とhybridogenesisとmaternal genome lossということらしい.いずれも私には定訳がわかりません.
PGL(paternal genome loss)は半倍数体制と非常に似ているがより複雑なものもあるらしい.またこのシステムはインブリーディングと深く結びついていることが議論される予定だそうだ.
続いてhybridogenesisは種間雑種と関係するらしく,これは面白そうだ.
maternal genome lossは受精後母ゲノムが捨てられるというのだから単為発生は単為発生でもオスによる単為発生ということになる.(メスによるものは単為発生と同じなので議論しないそうだ,納得)これは大きめの配偶子を作るメスにとっては耐え難いシステムのように思われる.いずれも面白そうで楽しみだ.






第10章 ゲノミックエクスクルージョン その1


様々な異常な遺伝システムにおいて,ある個体内で片方の親から受け継いだ染色体セットをすべて捨て去るということが起こる.もう片方の親にすれば通常個体に比べて2倍のアドバンテージがあることになる.
ここでは3つの異なったゲノミックエクスクルージョンを議論する.


まず最も重要で広く観察されるのはPGL(paternal genome loss).これはオスにおいて父親由来のゲノムが失われるものだ.オスは2倍体として始まるが,子孫には母由来のゲノムしか伝えない.結果としての遺伝パターンは半倍数体生物と同じものになる.(同じ両親を持つ姉妹同士の血縁度が3/4になるなど)このため準半倍数体と呼ばれることがある.

次に種間雑種が繁殖力を持つ場合に,接合子形成時,片方の種からのゲノムを捨てる現象が存在する.ゲノムが残る方の種からみるとこれは実質的に無性生殖になる.

最後にmaternal genome lossあるいは雄性発生がある.これは受精後に母由来のゲノムが捨てられ,発生個体は父由来のゲノムのみ持つ現象だ.これは父由来のゲノムによる母の組織を使った強制繁殖である.そしてこれはメスにきわめて大きなコストをかけるので理解が難しいシステムだ.