読書中 「Genes in Conflict」 第12章 その6

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements

Genes in Conflict: The Biology of Selfish Genetic Elements




要約の6番目は種間分布.
利己的な遺伝要素には様々な種間分布が見られる.理由がよくわかっていないものも多いが一部は理解できるものだ.まず,インブリード種とアウトクロス種では様々な利己的遺伝要素にとって減数分裂ドライブの有利不利があるので水平移動するものにとって広がりやすかった理想でなかったりすることは良く理解できる.またB染色体にとっては生殖系列に潜り込めるかどうかが大きいのでそれにより分布が生じるだろう.たとえば被子植物の花粉管形成時の第一有糸分裂はB染色体に絶好の潜り込みの機会を与えているのではと推測されている.
血縁淘汰的な現象が効いてくる場合には近隣にホストの血縁個体があるとよりドライブがかかりやすいのではないかと説明される.Maternal Effect Killerやインプリンティングではそうなるのだろう.
 
原因がよくわかっていない現象も多いとして列挙されている.B染色体が少ない染色体数の植物,端動原体を持つ哺乳類におおくみられること,核プラスミドがイースト菌でしか見つからないこと,双翅目でしか殺戮染色体が見つかっていないこと,ショウジョウバエの種間に見られるX染色体ドライブの偏った分布,X*がレミングしか見つかっていないこと,ネズミのY*,特定のカエルやナナフシにのみHybridogenesisがみられること.
いずれも面白そうな研究テーマだ.


哺乳類ではヒトとマウスがよく調べられているのでこの2種を使った系統比較も提案されている.理由はわかっていないがマウスはヒトより多くの利己的遺伝要素を抱えているという.配偶子殺戮 1:0,Maternal Effect Killer 3:0,L1 LINE,30:1といった具合らしい.可能性として集団の有効サイズ,マウスの近縁4種による雑種形成があげられているが十分な説明力はないと考えているようだ.全くの推測としてヒト集団の方が利己的遺伝要素に対する淘汰圧が強い,それは複雑な神経ステムがよりダメージを受けやすいかあるいは単に長命だからではないかと述べている.これも面白そうな研究テーマだ.別の哺乳類で比較データが整備されてくればいろいろ進展が期待できるような気がする.

著者もB染色体やCMS,そしてトランスポーザブルエレメントは容易に大きな種間分布データをそろえられそうだと期待している.ただ集団の5%に精子のうち半分がやや不活発なオスがいるとか,集団の5%に減数分裂時に新しい動原体が活動しているメスがいるとかいう現象は探知しにくいし,接合子殺戮やMaternal Effect Killerや配偶体要素がどのようなゲノム配列を持つのかわかっていないとして,その他のものはデータをとることが難しいと言っている.技術的なブレークスルーを期待したいところだ.



第12章 サマリー その6


6. 種間の分布

利己的遺伝要素は種間に一様に分布しているわけではない.あるグループには多く,あるグループには少ないという分布を示しているが,その原因は余りよくわかっていない.